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すおう るか
すおう るか
novelistID. 29792
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囚人惑星

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 のそりと1003号が起き上がる気配がした。次いで他の二人も起き上がった。急がないとまた秘密の通路でも使って消えてしまう、俺は、焦った。そろそろとその三人が消えた廊下に迫った。
 ばさり。
 またあの音だ。ばさり、ばさりと連続して聞こえる。その音が消えない間に廊下を覗き込んだ。薄暗い中に何やら、人影が見えた。いや、人影ではない。
 鳥だ。
 大きな翼をゆうに二メートルは伸ばして今まさに飛び立とうとしているではないか。三羽か、四羽か、いや、まだいた。だが、鳥たちは、次々に飛び立っていく。見ると天井に窓が穿たれている。その窓から外へと飛び去っているのだ。
 どこへいくというのだろう。いや、あの鳥たちはなんだ。俺はパニックになった。最後の一羽がこちらを見たような気がした。その鳥の瞳は白かった。頭に奇妙な模様があった。俺は。その鳥の顔に見覚えのあるよう気がした。
 1003号!
 俺は焦った。焦りながら、鳥の飛び去る方向を見定めた。そして廊下を走った。監獄の扉に鍵はかかっていない。看守も居なかった。扉を転(まろ)び出た。岩石だらけの平原を走った。砂礫が足の裏を刺したが、かまわなかった。鳥の姿を追った。走って、走って、とうとう鳥たちの消え去った場所に辿り着いた。大きな岩壁が重なったような山。その間にぽっかりと開いた洞窟。俺はその洞窟の前に立っていた。鳥たちはその穴へ吸い込まれていったのだ。
 用心しながら穴を進んだ。最初はそれほどでもないと思ったが、奥に行くにしたがって広くなっていくようであった。岩壁は灰色で、ざりざりとしていた。砂礫はだんだん細かくなり、足の裏が痛くなくなっていた。ぼわりとした明かりが見えた。眼を凝らすと黒い影がその明かりの前で盛んに体を動かしている。何をしているのだろう。俺はもっとよく見るためにその明かりに近づいた。
 鳥たちだった。大きな鳥が首を伸ばして何かをついばんでいるのだ。それは輝くような石だった。そこここに輝く石が転がっている。それを鳥たちは食べているのだった。だが良く見ると、鳥たちがついばんでいるのは、輝く石の間にある黒い石のようだった。それを選り分けて食べているのだ。飲み込みにくいのか、時折首を上げ、ついばんだ石をくいくいと喉を動かして食道へ送り込む姿も見えた。
 俺はその一つをつまみ上げた。きらきらと輝いたその石は、何かの結晶のようだった。小さな一つに力を入れるとぱりんといって、粉々になった。もう一つつまみ上げた。黒く何か汚いねっとりとした感触の石だった。指先に墨のような跡がついた。ざらざらとしている表面なのに感触は妙だった。
 鳥たちは腹が満ちたのだろう、重そうな体を持ち上げて空へ羽ばたいていった。その中でいつまでも動かない一羽があった。
 あれは1003号。白い瞳の鳥であった。その鳥が俺の目を見た。
 俺はその目に魅入られるまま、その鳥の前に立っていた。
「見てしまったか。俺たちの姿(秘密)を」
 鳥は物憂そうに俺を見つめている。きらきらと光る結晶の明るさに鳥の輪郭がはっきりと見えていた。
「ああ、お前たちは鳥だったのか」
 俺は吐き捨てるように言った。なんだか、監獄ぐるみにだまされていたという気分になっていたのだ。
「いや、もとは人間だ。俺たちは罪を償うために鳥になったのだ」
「償うため? いったいどんな罪だというんだ、お願いだ、教えてくれ、俺はどうしてこの星に来たのだ! どうしてお前たちは鳥になったというんだ。俺がどうして最後なんだ!」
「お前、身寄りはいるか?」
 その鳥は静かに問い返した。白い眼を伏目がちにして何やら哀しそうだった。
「なんで、こんなときに……、いや、いない」
「そうか、だから分からないんだな。教える者がいなかったのだろう」
「だから、どうしてなんだ。どうして俺が!」
 俺は畳み掛けた。俺は相手が鳥だということも忘れて問いかけていた。
「最後の男。知る権利はあるな。また、償わなければならない罪もある。……鳥となってからでも遅くはなかったのだが……」言葉の最後の文句はなんだ? 小さくて聞き取れなかった。
「分かった。話をしよう。俺は今日が最後のようだからな。……まだ話す時間くらいはあるだろう」
 見ると、鳥の体が変化していた。輝く結晶石の仄かな明かりの中で、柔らかな羽毛が何か、きらきらとしてきているのだ。
「俺もお前も同じ一族の末裔だ。最後といったのは、その一族の最後の一人ということだ。もう、お前のほかにはいない。お前、まさか子供を残してはいないだろうな」
「俺はひとりだ。妻なんていない、ましてや子供なんか!」
「そうか、それは良かった。……良くはないか。天涯孤独で身よりもなく、死ぬときも誰に看取られることもなく、お前は逝くことになるのだからな。この星は監獄惑星だが、流罪惑星でもある。罪のあるものがやってくる。その罪はたった一つだ。そして、その罪は己の犯した罪ではないのだ。罪を犯したのは『最初の男』だった」
 鳥は首を伸ばして遠くをみるような目つきにになった。
「最初の男?」
「ああ、俺たちの先祖の男だ。その一人の罪を子々孫々に渡って償うことになったのだ」
「なんだってえ、俺の罪はその男のためなのか」
 俺はいきりたった、なんという理不尽な話なのだ。信じられるかと思った。
「そうだ。その男は一攫千金を狙ってこの星に辿り着いた山師だった。この星を宝の惑星とでも思ったのだろうが、本当は違った。この星は毒の星だったのだ。この結晶石は宝石ではないのだ。あることで精製されてこの形になるものだ。
 この星は堅い大地に有毒な物質を秘めていた。その有毒な物質を堅い地盤が覆い隠していたのだ。宝を求めてそいつは岩盤を掘りまくったわけだ。その結果、有毒な岩石が露出した。その黒い石だ。それはこの星全体に毒を撒き散らすことになった。結果、この星は死の惑星になってしまった。男は死の世界になったこの星から、結晶を持ち去り逃げた。二束三文にもならぬものだったのだがな、宝だと疑わなかった」
 鳥はますます悲しげに白い瞳を俺に向けた。馬鹿な男の話だとその眼は言っているような気がした。
「逃げた男はどうなったんだ」
「ああ、逃げおおせた。最後は酷い人生だったらしいが、見つかることなく人生をまっとうしたらしいがな、その罪は消えなかった。その罪はその子に受け継がれた。罪を償わないその子供はまた、次の子供に罪を、また、その子供は次の子供に、罪は受け継がれていった。だが、罪は消えなかった。罪を償うには毒を総て消し去らなくてはならなかったのだ。この惑星の毒素は他の惑星まで汚染しようとした。そこで、近隣の惑星間で毒を消し去るために必要な精製を行うことが決められた。毒の石を精製し、解毒し、無毒化することができるのだ。その方法を行うには、それを行う者が必要だった。誰がやるか、そりゃ、もちろん、罪を犯したものだろう。この精製には大変な欠点があったのだ」
「まさ、か、あの、鳥、いや、お前、鳥なのか?」
「気が付いたか。……そうだ、鳥が食べてそれを無毒化するのだ。食べて咀嚼し、体内で無毒な結晶として精製するというわけなのだ」
作品名:囚人惑星 作家名:すおう るか