キジと少年
神社の祠に入れて二週間が過ぎた頃、キジの傷はずいぶん良くなり、そろそろと歩くこともできるようになっていた。
勇人は、キジにいつも話しかけていた。もちろん声は出ない。たとえ出たところで、キジが返事をしてくれるはずもないし、ただ辛い現実を誰かに知って欲しいと心が渇望していた。
「ぼくね、きのうもばんごはんたべさせてもらえなかったんだ。おなかがすいてすいて、よるもなかなかねむれなかった……」
「――でもね、あさごはんはほんのすこしだったけど、たべさせてもらえたからよかったよ。もしあさごはんもなしだったら、きっとあさのじゅぎょうのあいだに、おなかがグウグウいいだして、みんなにおおわらいされたかもしれない」
「そうなったらはずかしいよね。きょうはたべさせてもらえるかなあ」
キジの頭を撫でながらそう話しかける。
するとキジが悲しそうな色をその瞳に浮かべて勇人の方をじっと見る。
まるで勇人の心の声が聞こえているかのように。
「おまえにであえてよかったよ、ぼく」
「ぼくほんとうはとってもさびしくて、まいにちつらくて、せんせいはしんぱいしてくれるけど、もしほんとうのことをはなしたら、ぼく、いまのいえをおいだされるかもしれない」
「――そしたらぼく、どこにもいくところがないんだ。できたらとうちゃんやかあちゃんがいるところにいきたい」
「……どこにいるんだろう? どこにいったらあえるんだろう、ぼくのとうちゃんとかあちゃん……」
キジの頭の上に雫が一粒ポトッと落ちた。するとそれは閉じ込められていた川が堰を切ったかのように後から後からポトッ、ポトッと立て続けに落ちてきた。
キジが驚いたようにくびを伸ばして勇人を見上げる。
「ごめんよ」
そう言うと勇人は、自分の涙で濡れたキジの頭を、ズボンからシャツを引っ張り出してその裾で優しく拭いてやった。