キジと少年
――男やろ?――
「ん……?」
何か声が聞こえたような気がした。じっと耳を澄ましてみる。
――男やろ? 男なら泣いたらあかん――
「えっ?」
びっくりして勇人は周囲をキョロキョロと見回す。しかし、祠の中には自分とキジしかいない。穴から外へ顔だけ出して、外も見回してみるがやはりどこにも人影すら見えない。
「……?」
――勇人――
「もしかしたらおまえか?」
勇人は信じられない思いでキジを見た。
――勇人、男は泣いたらあかん――
「とうちゃんとおんなじことを……」
――泣いたらあかんけど、どうしても堪えられん時もあるもんや、勇人――
「そのこえは、とうちゃん。……とうちゃんなんか?!」
――勇人、とうちゃんもかあちゃんも、いつだってお前のそばにおるんや。いつだってお前を見てる。どうしても辛いときは、その時は思いっきり泣いてええんやで。……泣いてええんや――
「とうちゃーーーん! うえぇーーん」
その胸にキジを抱きしめ泣いていた。声なき声で……。
勇人の顔はあっという間に涙でぐしゃぐしゃになった。
散々泣き尽くして、ようやく勇人がしゃくりあげるようになった頃、また声がした。
――でもなあ、勇人。いつまーでも泣いてばっかりやあかんのやで――
「うん」
――男は強くならなあかんのや。大きくなった時に大切な人を守れる男にならなあかん。分かるな? 勇人――
「うん」
――勇人が幸せに暮らせるように、いっつも見てるから――
「うん」
――いっつもやでぇ、忘れるんやないでー。ええなあ?――
「うん」
――よしっ! それじゃあもう少しだけ頑張れ!――
「うん、わかった。もうすこしがんばるよ、ぼく」
鼻水を啜り上げながら続けて言う。
「ぼく、ひとりぼっちじゃないんだね。がんばるから、ぼく……」
それからの毎日は、学校の帰りにキジと過ごす時間だけが、唯一勇人の心の安らぎの時間となった。だからその祠は、彼にとっては癒しの場所でもあった。
ところが幸せな時は長くは続かなかった。キジの足は完全に良くなり、山の仲間の所へ帰る時がやってきてしまった。