秘められた想い
奇跡的な再会の日の夕刻、珍しく定時の五時に田村の仕事が終わった。地下鉄の駅で電車を待っていると、偶然そこに理絵が歩いてきた。田村は神のような存在を感じた。驚くなと云われても、無理な話だった。
「お久し振りです」と、咄嗟に田村は冗談を云った。
「なあに?どういうこと?」
理絵も勿論驚いた顔だった。
「待ち伏せなんてしてませんよ。完璧な偶然です。十二年間も会わなかったのに、こんなこともあるんですね」
「偶然!?……そうですか。お久し振りです。十時間振りですけどね」
理絵は可愛らしい笑顔を見せた。
いつの間にか田村も居眠りをしていたらしい。熱海から一時間半ほど過ぎて眼覚めると、三分停車の駅に停まる直前だった。弁当を買ってくる際に、田村の俊足がものを云った。
「美味しいわ。こんなにおいしいの初めて」
「感動ものだね。この世で一番美味いものが駅弁だと思ったよ」