秘められた想い
「今日から秋ですね。空気の透明度が、昨日とまるで違います」
「田村さんって、芸術家なんですね。でも、そう云われてみると、空気の感じが違うような気がします」
「そうですよね。ところで、水野さんのお勤め先はどちらですか?」
理絵は躊躇わずにほんとうのことを応えた。それは、大手の有名な貿易会社だった。
「見た感じ、キャビン・アテンダントだと思いました」
「だめでした。だからOLです」
田村は零細な写植の会社に勤めていたが、訊いてみると下りる地下鉄の駅が同じだった。
「理絵さんを採用しないなんて、だめな航空会社ですね。そんな会社の飛行機は墜ちますよ」
バスから下りたふたりは、急ぎ足で地下街に下り、エスカレーターで駅の改札まで移動した。
小学生だったときの田村は、卒業するまで彼女に恋をしていた。
初恋だった。理絵は手足の細い、可愛い少女だった。きれいなショートヘアだった。飛びぬけて秀才だった。ふたりは六年生のときの、同級生だった。田村は理絵に憧れていた。毎朝欠かさず、彼女の夢を見ていた。