秘められた想い
ふたりが乗っている湘南新宿ラインのグリーン車では、客室乗務員による車内販売がきた。ホットコーヒーをふたつ買った。樹脂製の白いカップを小さなテーブルに置いた。
「普通列車のグリーン車で車内販売があるというのは、
全国初の試みだと思います」
「そうですか?今日が初めてかも知れませんね」
横浜までは乗客が多かった車内も、大船を過ぎる頃には田村と理絵のふたりだけになってしまった。
田村はどきどきしながら、理絵に初めての口づけをした。
「理絵さん。やっとふたりの時間が訪れましたね」
「なあに?それ。映画の台詞か何か?」
理絵はふきだしそうになった。
「今、頭の中で書き始めた小説だよ」
「ふたりはこれから雪国へ向かうのね」
午前九時半過ぎに、終点の国府津に到着した。雪が雨に変わったものの、その降り方は激しいものだった。