秘められた想い
「田村さんが窓側ですよ。夢で見たとおりにしてください」
「夢に見てくれた?そうですか。わかりました」
田村はこんなに愉しい気分になるのは久しぶりだと思う。この旅は理絵が鈍行で京都まで行ってみたいと云うので、鉄道好きの田村が同行することになり、話が成立した。しかし、彼女が夢を見たというのはほんとうだろうか。
「ちょっと心配です。電車が止まらないかって」
「大丈夫です。そんなに積もったりしません。地球の温暖化が味方してくれています」
列車が発車した。田村はすれ違う電車ばかり見ていた。
「あっ!凄い雪」と、理絵が驚いてみせた。
列車が新宿にさしかかったとき、雪は本降りになっていた。高層ビル群が霞み、かろうじて見える。
「珍しいね。わくわくする」
「でも、途中で止まったら困るわ。そうなったらどうしよう」
「大丈夫。保証します。そんなことは昔の話です」
窓の隙間から冷気が忍び込んでくるような気がした。勿論、それは気のせいなのだが。
田村は理絵の不思議なくらいにやわらかい手を握った。