秘められた想い
秘められた想い
田村浩二は朝の六時半に、いつもと違って意外にあっさりと起きた。朝食はフリーザーから出してトースターで焼いたパン、荒引きソーセージ、卵焼き。そしてレギュラーコーヒー。そのあとで熱い湯に浸したお絞りを顔に当ててから、シェービングジェルを使ってひげを剃った。それから窓を開けて驚いた。雪が降っていた。
黒いコートの彼は、雪の中を凍えながら池袋駅へ向かった。転倒を怖れながら歩いて十五分。辛い時間だった。だが、心の中は熱く燃えていた。美人OLとふたりで旅に出るのだから。
彼は八時過ぎ発の湘南新宿ライン、国府津行き普通列車に乗車した。その列車はステンレス製の車体に、緑とオレンジの帯。E231系である。朝の通勤時間帯と重なったこともあって、グリーン車も大体席が埋まっていたが、奇跡的にどうにかふたり分の席を確保することができた。
その直後、白いコートの水野理絵が列車の中に入ってきた。
「おはようございます」
爽やかな笑顔だ。
「雪が降っていたから驚いたでしょう。どうぞ窓側の席に」