秘められた想い
新幹線の四倍の時間をかけての到着であった。もう既に辺りは真っ暗だった。東海道本線鈍行列車の旅。乗り継いだ列車は七本だった。
「いろいろハプニングがあったわね」
「思ったより楽じゃなかったね。でも、東海道本線乗り継ぎの普通列車の旅は、普段あっという間に過ぎて行く景色を、ゆっくりと眺めることができたよ」
「そうね、飛行機や新幹線とは大違いだったわ」
「車で来たって、こんなに遠くは感じないだろうね」
少々腰は痛くなったものの、心地よい十時間だった。田村はそう思ったが、口には出さなかった。その代わり、別のことを訊いた。
「ところで、唐突ですが、宮田とは付き合ったの?」
「いいえ。考えてあげるって、云っただけよ」
理絵は複雑な想いで、そう云ったのかも知れない。
「彼は東大の大学院生だったかな?」
「国会議員とかに、なって欲しくないわ」
「憎まれっ子世にはばかる、なんて云うから、あり得るね」