秘められた想い
帰省ラッシュと青春18きっぷのシーズンだからだろうか。車内には若者の姿も多く見受けられる。
「九州弁が聞こえてくるわね」
「このままムーンライト九州に乗車する人もいるのかな?一緒に行ってみたいような気もするな」
大垣から四十分程で、米原に到着した。夕暮れが迫っている。いつの間にかそんな時刻になっていた。街灯も灯り始めている。
「ついにJR西日本の区間までやってきたね」
「遠くから、はるばる来たのね」
ここまで乗り継いだ列車は五列車。アンカーであるJR西日本新快速、播州赤穂行き3503Mにたすきが渡る。これも白い車体にオレンジの帯である。しかし、ここでも列車待ちの人の列ができていた。
列車が到着して扉が開くと、田村は是が非でもという気迫で、席を確保するのを優先した。
乗り込むと人と人との間をすり抜けるようにして、田村は奥へ突進した。奇跡的にふたり分の席を確保した。あとから理絵がきて隣に座った。
「やったね!浩二さん。偉い偉い」
理絵は大喜びで田村の頭を撫ぜた。ほんとうは良くないことだと、田村は反省した。足が不自由なひとなど、どうしても座りたいひとは居る筈である。田村はそう思ったが、それは口に出さなかった。