秘められた想い
「あなたが誰かと話しているのが聞こえると、全部書いていたのよ」
「知らなかったなぁ。でも、フォークダンスのとき、理絵さんは僕をパスしたでしょう」
「ああ、それはね、何か、恥ずかしかったんですよ。なんだか手に汗がにじみ出ているような気がして、嫌われるんじゃないかって……」
「僕はね、あの日の晩は泣きましたよ」
「わたしも泣いたの……満月の夜だったわ」
「そうですよ!確かに、あの夜は満月でした!」
「あなたも同じ月を見ていたのね。なんだか哀しくなってきたわ」
理絵は眼を潤ませていた。
その数日後、ふたりはワインを飲みながら食事をした。
「理絵さんは僕より全然成績が良かったし、副級長だったから、相手にされないだろうって、思ってました」
「田村君は誰よりも背が高くてかっこ良かったわ。走るのが凄く速くて、運動会のリレーのアンカーで五人抜きをして、わたしたちのクラスに優勝をプレゼントしてくれたわよね。絵も天才的だったし、クラスでは一番の憧れの的だったかも……」