秘められた想い
理絵は慌てた。列車は間もなく減速を始め、やがて完全に停止した。
「どうも底に何かが当たったらしいな」
田村は暗い表情になった。線路と線路の間に、何かが置かれていたようである。恐ろしい話だ。どんな処理がされているのか判らなかった。車内アナウンスもない。動き出すのを待っている間に、
貨物がやってきたのが見えた。
田村はひとりごとのように云った。
「後ろにワムを連結している……」
「ワム?どういうこと?」
「パレット輸送用有蓋車。箱形の貨車のことなんだ」
「あれなら座れるわね」
「暖房は勿論なしだよ」
「残念……でも、脱線しなくて助かったわ」
列車が再び動きだすと、理絵は笑顔になった。
だが、これで二十分以上の遅れになった。
理絵との奇跡的な再会を果たした日の夜のことを、田村は理由もなく思い出した。あの晩、ふたりは以前から気になっていたバーに立ちよって飲んだ。ふたりとも、そのバーに惹かれていた。
照明を落としたその中は、未知の大人の世界という雰囲気だった。