チャトラ
もう、どこかへ行ってしまっただろうかと心配しながら、昼まで仕事をした私は、社内にチャイムが鳴り渡ると公園に向かって全力で走った。チャトラは朝の茂みの中にいた。嬉しかった。彼は寒くない陽気なのに震えていた。
今度こそ、もうどこかへ行ってしまったかも知れないと気をもみながら、私は夕刻まで仕事をし、終業時刻になると車で公園へ向かった。
そのとき、私は眼を潤ませていたかも知れない。チャトラはやはり震えながら、同じ場所で待っていたのだった。連れて帰れば母に抗議されるだろうと思った私は、泣きたいような気持ちでチャトラに別れを告げた。
チャトラの出迎えのない帰宅は寂しいものだった。
「お前、チャトラはどこに棄ててきた?」
母は心配顔で訊いた。
「会社の近くの公園だよ」
「可哀想な気もするけど、ぜんそくが辛いんだ。猫の毛が良くないんだよ。我慢してくれるね」
そう云う母は涙ぐんでいた。