チャトラ
チャトラ
晩年の母はぜんそく気味で辛い想いをしていた。猫が大好きなのに「悪いけどチャトラを棄ててきてくれ」と云った。
私はその翌朝、チャトラを車にのせた。お腹が白いあか虎のオス猫。チャトラは七歳くらいだっただろう。
或る朝公園で飛び跳ねて遊んでいた五匹の仔猫を発見した私が、そのうちの最も器量良しの一匹を車のトランクに入れ、会社へ行かずに家に戻ってきた。その日から私はチャトラの親代わりになった。指にミルクをつけてなめさせて育てた。
チャトラは朝駐車場から私が運転する車が出てくるときにいつも見送るようになった。
仕事が終わって帰宅するときも、いつも道路で私の車を待っていた。
「ねえねえ、また今日も『お出迎え猫が居るよ』と、学校帰りの学生たちが面白がっているという噂も、私の耳に入ってきた。
恐らく七年間、チャトラはいつも私を見送り、そして出迎えてくれた。そのチャトラを棄てるために車にのせた私は、かなりせつない気持ちだった。胸に熱いものが何度もこみ上げてきた。車を三十分ほど走らせて勤め先の近くの公園に着くと、私はチャトラを灌木が密生している一角に押し込むようにした。