一等賞
娘がスタートラインに立った。
カメラを持つ手に力が入る。
隣のお父さんも手にカメラを持っている。
ふと目が合った瞬間に、火花が散った。
「お宅の娘さんも次に走るんですかな?」
「えぇ、赤いハチマキの子です。あなたは?」
「うちの娘は青のハチマキです」
「私の娘は速いですよ」
「うちの娘の方が速いですよ」
(なんだこいつ!? 美樹、お前の実力を見せ付けてやれ!)
バァン!
四人が一斉に走り出す。
その中で飛び出したハチマキは、意外にも赤だけではなかった。
青いハチマキがぴったりくっついて走っているのだ。
「いけぇーー!!」
「ぶっちぎれぇーー!!!」
娘の方が少し前にいる。このままゴールすれば一等賞だ。
娘ほどではないにしろ、ここまで速く走れる小学一年生が他にもいたのは驚きだったが、所詮、娘の敵ではなかったようだ。
ニヤッ
横に目を向けた瞬間、場内にどよめきが走った。
赤いハチマキと青いハチマキをした二人が転倒している。
娘はすぐに立ちあがって再び走り出した。後続とはかなりの差があったため、まだ追いつかれてはいない。
一緒に転倒した青いハチマキの子はまだ立ちあがっていない。
このままいけば・・・・・・
そう思った瞬間、娘の走る速度がガクンと遅くなった。
残る二人が娘を抜いていった。
倒れたときにどこか痛めてしまったのだろうかと心配になった。
私 の目の前に屈んでいた教師が青いハチマキの子に駆け寄ろうとして腰をあげかけたとき、隣のお父さんがその教師に待ったをかけた。
「娘は一人で立ち上がれます。大丈夫です」
このオヤジは小学一年生の娘に何を期待しているのだ!?
私はそう思った。きっと言われた教師もそう思っただろう。
娘は立ち止まり、振り返り、そして、青いハチマキの子に駆け寄った。
青いハチマキの子は上体を起こして立ち上がろうとしているが、血が流れるほど激しく膝を擦りむいていて、さすがに立ち上がるのは困難なようだった。
そこへ、ようやく娘が辿り着いた。
娘が肩を貸し、二人で一歩一歩ゆっくりとゴールへ歩きだした。
ゴールの内側に待機していた教師が駆け寄ろうとした。
「先生!」
私はその教師を呼び止め、まっすぐ掌を見せて制止した。