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一等賞

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「忘れ物ないか?」

「うんっ!」

「よ〜っし! いっくぞぉ! 一等賞だぁ!」

「おーー!!」


 今日は娘の通う小学校の運動会がある。

 幼稚園のそれとは規模も競技も一味違った小学校の運動会。
 娘はとても楽しみにしていた。
 もちろん、私にもそして妻にも当てはまる。
 前夜のてるてる坊主を作って、雨が降りませんように、とお願いする娘の姿。
 我が娘ながらなんとも・・・。

 おっといかん。 顔が緩んでしまう。


 選手入場、開会宣言、ラジオ体操。
 プログラムは滞りなく進んでゆく。
 そうして、いよいよ待ちに待った、一年生による徒競争が始まった。

 娘は走るのがとても速い。
 これは決して親ばかなんかではなくて、本当に速いのだ。それは幼稚園でのかけっこによって証明されている。いくら校区が広がったからと言っても、娘より速く走れる小学一年生がいるとはとても思えない。
 だから安心して見ていられる。
 そう、相手が誰であろうとも、娘の一等賞は間違いないのだ!!

 あたりには『天国と地獄』のテーマが流れている。
 特設されたゲートから、一年生たちが不揃いな駆け足で入場してきた。
「カズヤー!! ガンバレー!」
 入場の列に声を掛ける親の姿があった。
 あそこまでミーハーなことをすると、娘も妻も怒るのだ。
 そんな恥ずかしいことしないで、と。

「ミキちゃーん! がんばってー!!」

 なぬ!?

 私の隣に座っていたはずの妻は、いつのまにか立ち上がっており、観覧席の最前列に陣取っていた。
 それは反則だ、と思ったが、口にするのは止めておいた。
 妻の楽しそうな顔を見るのも久しぶりな気がしたからだ。それだけでも今日は良い日だと思える。まさに運動会様々である。
 そろそろ娘の出番が近づいてきた。ゴール付近に移動しておこう。

 ゴールした瞬間の娘の姿をファインダーに収める。

 これが本日最大にして唯一の目的だ。妻にも決して撮り逃すことがないように、と厳命されている。

 私はデジタルカメラを手に立ちあがった。
「すいません、娘の番が近いので、少しだけ代わって頂けませんか?」
 見ず知らずのお父さんに場所を譲ってもらった。
 かなり満足な表情だったから、先ほどの一等賞の子供のお父さんなのだろう。
 別に羨ましくはない。娘も一等賞を持って帰ってくるのだから。
作品名:一等賞 作家名:村崎右近