世界へ
「君はどこからきたのかね?」
中年は尋ねた。
「福岡からっすよ」
「一人旅とはすごい。私も君くらいの頃ヒッチハイクの旅をしてね。そのころのことを思い出したんだ。私もヒッチハイクの旅に出た頃、色んな人に助けられたからね。人から与えられた恩は他人に返さないといけない。私はそう思うんだよ」
「そうすか」
太郎は感じた。
「これは人生勉強の旅だ!俺、鹿児島とか歩いて10時間位で着く距離だと思っちょった。世の中俺の知らないことはまだまだたくさんあるぞ。ケチジジイや、優しい人、世の中にはいろんな人がおるぞよ!」
中年は太郎の顔を見て尋ねた。
「ははは、おかしな顔をしてどうかしたかね?」
太郎は中年の声で正気に戻り、自分の思っていることと別のことを言った。
「いやぁ。腹減ったんすよ。今日おにぎり一つしか食べてなくて」
「では私がご馳走しよう」
「まじっすか?ラッキー!」
車は山を下った。
ご飯にカレーをおごってもらったあと、中年は言った。
「大分と宮崎を結ぶ橋がある。そこの橋まで君を送るから自分の足で県を超えなさい」
車の中でもこの中年はよくしゃべった。今は大分の竹田市と言う所で、日本一トンネルが多い市らしい。あと、彼の家族のことなど。太郎はうなずくだけだった。こういう大人との会話はあまり慣れていないのだ。
橋に着いた。
「おっちゃん、ありがとうございました。俺、おっちゃんのこと一生忘れない」
「うん。君ならきっと鹿児島まで行けると思うよ。頑張るんだよ」
「おっちゃんも元気でね。カレーありがとう」
中年と別れ、この日は橋の下で野宿をした。
「さてと、行きましょうかな」
朝起きて、太郎は出発した。目の前にはとてつもなく長い橋がある。
「うおーっ。なげえばい!どん位歩けばいいんかいな」
歩き始めて3時間、やっと宮崎県の看板が見えた。
「よっしゃ、自分の足で県を超えるばい」
太郎の心は弾んだ。宮崎に入り、太郎は更に足を進めた。
太郎黙々と歩く。橋が終わる頃にはもう夕方になっていた。
「ふー、長かった。今日はここいらで休憩だ」
太郎はコンビニをみつけ、飯を買い、食べた後、ベンチの上に横になった。もう野宿も太郎の習慣になっていた。太郎は疲れからか、すぐに寝てしまった。
「おいおい、にーちゃん」
誰かが太郎を呼ぶ声で太郎は目を覚ました。茶髪、ボウズ、ピアスを左耳に付けているガラの悪そうな三人組の男が太郎を囲んでいた。
「にいちゃん、タバコもってないかい?」
太郎、状態を起こし目をこする。そしてこう言った。
「あぁー?お前ら人様が寝てるのに、いきなりタバコくれだ?そんなもんはない。あったとしてもお前らみたいに常識ない奴には上げない。」
寝起きの太郎はいつも機嫌が悪い。しかもこのセリフもどっかで聞いたようなセリフだ。太郎はそう言うと、再び寝てしまった。
「このガキ!」
ボウズ頭の男が太郎のベンチをおもいっきり蹴り飛ばした。その勢いで太郎はベンチごと吹っ飛んだ。
次の瞬間、太郎は起き上がりベンチを持ち上げ、ブンブン振り回した。小さいころから野球をしていたので、腕力が半端ない。そのベンチがピアスの男の顔面にあたった。男は顔を押さえている。どうやら鼻血がでているみたいだ。そしてつぶやいた。
「折れたかもしれ。。。」
ピアスの男がなにかいっているにもかかわらず、太郎はベンチをピアスの男にぶん投げた。また顔面にヒットして、その男は吹き飛んだ。
「うわー!こいつマジあぶねぇぞ!」
そう言って、ガラの悪い男はみんな逃げ出した。
太郎はベンチを元の位置に戻し、また横になった。しかし、さっきのことが気になってなかなか寝れない。
「俺はただ寝ていただげなんだ。なぜあいつらは俺に絡んできた?全然わからん。俺が弱そうだからか?よし、明日、髪のを金髪にして、気合い入れてみるか!」
太郎は眠りについた。
太郎は起きてコンビニを探した。幸いにもすぐコンビ二は見つかり、金髪の染め粉を買った。その後、川に行き、髪を染めた。人生で初めて髪を染め、鏡もなかったので、大分マダラになったが太郎はまるで自分が生まれ変わったように感じた。
「うひょー。これかっきぃばい!これで気合い入った!もう変な奴から絡まれることはないやろ」
根が単純な男なのだ。新生リニューアル太郎、再び鹿児島を目指した。
野宿、ヒッチハイクを繰り返し出発から15日目の夜、ついに太郎は鹿児島に到着した。公園を見つけ再び野宿。鹿児島発の野宿だ。太郎は公園の滑り台についている小さなトンネル内で横になった。あたりは真っ暗、虫の鳴き声だけが響く。
「静かだ」
太郎はつぶやいた。
「初めて一人旅と言う物を経験し、自分の知らないことにたくさん出会ったな」
太郎は急に笑いがこみ上げてきた。
「ははは。俺の同学年の奴は、毎日学校、俺は放浪の旅かぁ。けど、これでいい。改めて思ったんやけど、俺は人と、普通の人が歩めないような人生を送りたい。小さいことかもしれんが、俺は初めて自分が決めた目的地に自分の力で辿りつけた。ははは。なんか心が不思議な位落ち着いとる。俺はやったぞ」
まだ、将来の明確な目標などは、はっきりと決まっていない。漠然としている。しかし、この、
<普通の人が歩めないような人生を送りたい>
と、言う決心がのちに太郎の人生を波乱万丈にさせる。
朝だ。太郎は子供の声で目を覚ました。
「ママー。トンネルの中で誰が死んでる!」
太郎は叫んだ。
「俺はまだ死んでないわい」
「うわ!しゃべった!」
子供は逃げて出した。
「さて、鹿児島に着いたことだし、これからどうしょうか。。。とりあえず腹減ったな」
財布の中身を見てみると、残りの金が2万円を切っていた。
「帰りの金を計算してみると、もう帰らなければ、文無しになってしまう。本当に死んでしまう。道端の草食うのはごめんだしな。よし、今回、勉強になることはたくさんあった。そろそろ帰るか」
太郎は福岡に向けて再び出発した。
帰り道は鹿児島、熊本、福岡の道で帰った。野宿、ヒッチハイクを繰り返し、一週間で家に着くことができた。
「ただいま」
玄関が開いた。母、美和が出迎えた。
「たろちゃん、電話してもでらんし、心配したとよ!電話くらいはでらな」
「ごめんごめん、今回一人でやってみたかったき、あんま連絡取りたくなかった。けど、人生勉強になったよ。俺の知らんこと世の中にはいっぱいあるばい。俺はそれを感じた」
「人生勉強はいいけど、なんで頭が金髪なん?」
「色んなこと経験して、考えた結果こうなった」
「どんな経験?まぁ、いいわ。元気に帰ってこれたなら。手洗ってご飯食べり」
「はいよ」
約一ヶ月ぶりの自分の家。太郎は心を弾ませた。