世界へ
「同世代 成人式だ 俺裁判」
太郎は拘置所の真っ白な壁を見つめながら、小さな声でつぶやいた。
彼の名前は小林太郎。勉強の方はからっきしだが、もともと悪い男ではない。中学の頃は野球部のキャプテンを務めて、部員15人足らずの野球部を全国大会へと導いた男だ。
守備はキャッチャー、四番を打ち、色んな高校からスカウトもくるほどすごかった。彼にとって野球は人生の全てだった。太郎は特待生として北九州のある名門高校にゆくことに決める。
当時、太郎には彼女がいた。高校に入学する前に太郎が初めて付き合った女で、名前は麻美、年は太郎と同い年だ。お互い別々の高校にゆくことになり、遠距離恋愛が始まった。
野球の練習はきつかった。さすがは名門校、中学のレベルとはわけが違う。6時から8時までの朝練、学校が終わってから4時から8時までの練習、その後、寮に戻り、先輩のユニホームの洗濯。その後、夕食、風呂、掃除。これらが終わると、太郎の自由時間がやってくる。毎日ハードな生活、太郎の唯一の楽しみは、その自由時間に麻美と連絡をとれることだけだった。
高校生活が始まって2ヶ月がたった。今日もきつい練習を乗り越え、太郎は心弾ませて、麻美に電話をかけた。すると、麻美は言いにくそうにこう言った。
「たろちんに逢えんの、もうバリきついっちゃんねー。」
太郎は麻美が言っていることが理解できなかった。
「バイバイたろちん」
麻美は電話を切った。太郎は電話を持ったまま大声で泣いた。
一週間後、太郎は高校をやめ、麻美に逢うために地元へと戻った。地元へ戻る電車の中、太郎は心のなかでこうつぶやいた。
「もう寂しい思いはさせんきの、麻美。俺がお前を守る」
高校やめて一ヶ月がすぎた。この一ヶ月間、太郎と一緒にいる時、麻美はいつも幸せそうに笑っていた。そんな彼女の顔を見て、太郎も幸せいっぱいだった。
「やっぱ俺は高校やめて正解だった。この女を幸せにできるのは俺しかいないぜっ!」
地元に戻ってから、太郎はアホの如く麻美に尽くした。
そんなある日、再び太郎は麻美から衝撃的な言葉を言われる。
「たろちん、高校やめて魅力の魅の字もなくなったよ。魅力ないき別れよ。バイバイたろちん。」
太郎は今度は泣かなかった。多分多少免疫力がついたのだろう。しかし次に太郎のとった行動は驚くべきものだった。家に速攻帰り、リュックに大量のカップラーメンを詰めこんだ。不審に思った母、美和が太郎に問い詰めた。
「たろちゃん、カップラーメンリュックに詰めてどうするつもりなん?」
「おかん、俺ちょっと自分探しの旅にいくわー」
美和の目は点になっていた。
「おかん、俺ヒッチハイクで鹿児島まで行ってくるわ。多分一ヶ月位でかえるき、心配せんでいいき」
家を飛び出した途端、美和が追いかけてきた。
「たろ!なんがあったんね?まぁ、いいわ。理由は聞かんよ。ただ、どこにおっても食べ物だけはしっかり栄養のあるもの食べなさい。大体カップラーメン持って行ってお湯どうするつもりなん?」
と、言って太郎に5万円渡した。美和の目は真っ赤だった。
太郎は出発した。福岡から鹿児島の距離はかなりの道のりだ。初めて失恋を経験した太郎、こういうおもいきったことをしなければ、気持ちに踏ん切りをつけることができなかったのだろう。
ヒッチハイクといえど、そう簡単に車は止まってくれるわけでもなく、太郎は自分の足で歩くしかなかった。3日かけ大分に到着した。県を超え、太郎は思った。
「俺は一体なにをしているのだろうか。。。?」
急に虚しさがこみ上げてきた。初めての一人旅。頼れるものは一人もいない。特に夜が辛かった。公園、駅、橋の下での野宿。まっくらなので本当に心細い、おまけに夏なので蚊がすごい。朝起きると、身体中蚊に噛まれていた。
「うん?俺、蚊のご飯?」
大分での初野宿、太郎はコンビニで虫除けスプレーを買い、体に振りかけて寝た。
朝起きて、川で風呂に入ると、太郎は再び出発した。
「よっしゃ、次は宮崎目指していこうかな。あっ、そーいえば俺、地図持ってなかった。次コンビニみつけたら地図買おうかな。そしてコンビニで止まってるトラックに近くまで乗していってもらおう!」
そうと決めれば、太郎の心は躍った。足取りも早くなる。出発から一時間程度でコンビニを発見することができた。
「やったー。ふぅ、喉乾いたぁー」
太郎はコンビニでおかかおにぎり、ポカリ、地図を買ったあと、駐車場に一台のトラックが止まっていたのを発見した。すかさず駆け寄ってみる。トラックの中には30台位のヒゲモジャモジャの男が足を窓から付き出して寝ていた。
「おっちゃん、おっちゃん」
男は眠たそうな顔で太郎をみた。
「俺さぁ、福岡出身で鹿児島まで行きたいんよね。けど、鹿児島っち、遠いやん?よかったら近くまで乗して行ってやらんね?」
男は言った。
「ボウズ、一万払いな」
「俺、一人旅してて金あんまないんだよ。夜寝るのも野宿やし。たのむよ、おっちゃん」
「いいかボウズよく聞け、人様寝てるの起こしやがって、さらに車に乗せてだぁ?甘ったれるのもいいかげんにしやがれ。それにお前は人に頼む時の礼儀ってモノを知らない。まず、それを身につけて出直してきな。世の中お前の思っているほど甘くはないぜ。」
太郎は叫んだ。
「けちくそじじい!」
太郎は歩き出した。初めて世の中の厳しさを経験したようで、自分が情けなくなった。15歳の太郎、地図を見ながら宮崎を目指し再び歩き始めた。
トンネルの中を歩いていると、携帯が鳴り出した。麻美からだった。太郎は複雑な気持ちでケータイをとった。
「もしもし」
「たろちん?あの日はゴメンね。やっぱり麻美たろちんのことが。。。プープー。」
「もぉしもしー」
トンネル内だったので、電波が途切れた。麻美が言おうとしたことは、あまり聞き取れなかったが、太郎からすればもうそんなことはどうでもよくなっていた。今、太郎がやらねばならないこと、それは鹿児島へゆくこと。こうなれば、太郎は失恋のことなどもう微塵も頭の底には残っていなかった。太郎は足を進めた。
今、太郎は山奥を歩いている。どうやら道に迷ったようだ。あたりも暗くなってきた。地図を開いて歩いてみる。ここが何処なのかもわからない。太郎は辟易した。
「困ったな山奥で野宿はヤバいだろ?うわっちゃぁ」
などどつぶやいている時、一台の車が通りかかった。その車は止まり、一人の中年の男性が太郎に声をかけた」
「お兄さん、地図など広げてどうしました?大きなリュックまで抱えて。」
「俺ヒッチハイクで鹿児島まで行きよんやけど、道に迷ったんだよ、じゃなくて迷ったんすよ。今どの辺かわかるっすか?」
太郎は地図をみせながら尋ねた。
「この先、歩いても山奥に進むだけだよ。私は今、街に行く途中だからついでに乗っていくかい?」
「マジっすか。。。?」
「マジだとも。若いのに一人旅感心するよ」
太郎は車に乗った。急に安心したのか、無性に自分の腹がへっていたことに気がついた。
太郎は拘置所の真っ白な壁を見つめながら、小さな声でつぶやいた。
彼の名前は小林太郎。勉強の方はからっきしだが、もともと悪い男ではない。中学の頃は野球部のキャプテンを務めて、部員15人足らずの野球部を全国大会へと導いた男だ。
守備はキャッチャー、四番を打ち、色んな高校からスカウトもくるほどすごかった。彼にとって野球は人生の全てだった。太郎は特待生として北九州のある名門高校にゆくことに決める。
当時、太郎には彼女がいた。高校に入学する前に太郎が初めて付き合った女で、名前は麻美、年は太郎と同い年だ。お互い別々の高校にゆくことになり、遠距離恋愛が始まった。
野球の練習はきつかった。さすがは名門校、中学のレベルとはわけが違う。6時から8時までの朝練、学校が終わってから4時から8時までの練習、その後、寮に戻り、先輩のユニホームの洗濯。その後、夕食、風呂、掃除。これらが終わると、太郎の自由時間がやってくる。毎日ハードな生活、太郎の唯一の楽しみは、その自由時間に麻美と連絡をとれることだけだった。
高校生活が始まって2ヶ月がたった。今日もきつい練習を乗り越え、太郎は心弾ませて、麻美に電話をかけた。すると、麻美は言いにくそうにこう言った。
「たろちんに逢えんの、もうバリきついっちゃんねー。」
太郎は麻美が言っていることが理解できなかった。
「バイバイたろちん」
麻美は電話を切った。太郎は電話を持ったまま大声で泣いた。
一週間後、太郎は高校をやめ、麻美に逢うために地元へと戻った。地元へ戻る電車の中、太郎は心のなかでこうつぶやいた。
「もう寂しい思いはさせんきの、麻美。俺がお前を守る」
高校やめて一ヶ月がすぎた。この一ヶ月間、太郎と一緒にいる時、麻美はいつも幸せそうに笑っていた。そんな彼女の顔を見て、太郎も幸せいっぱいだった。
「やっぱ俺は高校やめて正解だった。この女を幸せにできるのは俺しかいないぜっ!」
地元に戻ってから、太郎はアホの如く麻美に尽くした。
そんなある日、再び太郎は麻美から衝撃的な言葉を言われる。
「たろちん、高校やめて魅力の魅の字もなくなったよ。魅力ないき別れよ。バイバイたろちん。」
太郎は今度は泣かなかった。多分多少免疫力がついたのだろう。しかし次に太郎のとった行動は驚くべきものだった。家に速攻帰り、リュックに大量のカップラーメンを詰めこんだ。不審に思った母、美和が太郎に問い詰めた。
「たろちゃん、カップラーメンリュックに詰めてどうするつもりなん?」
「おかん、俺ちょっと自分探しの旅にいくわー」
美和の目は点になっていた。
「おかん、俺ヒッチハイクで鹿児島まで行ってくるわ。多分一ヶ月位でかえるき、心配せんでいいき」
家を飛び出した途端、美和が追いかけてきた。
「たろ!なんがあったんね?まぁ、いいわ。理由は聞かんよ。ただ、どこにおっても食べ物だけはしっかり栄養のあるもの食べなさい。大体カップラーメン持って行ってお湯どうするつもりなん?」
と、言って太郎に5万円渡した。美和の目は真っ赤だった。
太郎は出発した。福岡から鹿児島の距離はかなりの道のりだ。初めて失恋を経験した太郎、こういうおもいきったことをしなければ、気持ちに踏ん切りをつけることができなかったのだろう。
ヒッチハイクといえど、そう簡単に車は止まってくれるわけでもなく、太郎は自分の足で歩くしかなかった。3日かけ大分に到着した。県を超え、太郎は思った。
「俺は一体なにをしているのだろうか。。。?」
急に虚しさがこみ上げてきた。初めての一人旅。頼れるものは一人もいない。特に夜が辛かった。公園、駅、橋の下での野宿。まっくらなので本当に心細い、おまけに夏なので蚊がすごい。朝起きると、身体中蚊に噛まれていた。
「うん?俺、蚊のご飯?」
大分での初野宿、太郎はコンビニで虫除けスプレーを買い、体に振りかけて寝た。
朝起きて、川で風呂に入ると、太郎は再び出発した。
「よっしゃ、次は宮崎目指していこうかな。あっ、そーいえば俺、地図持ってなかった。次コンビニみつけたら地図買おうかな。そしてコンビニで止まってるトラックに近くまで乗していってもらおう!」
そうと決めれば、太郎の心は躍った。足取りも早くなる。出発から一時間程度でコンビニを発見することができた。
「やったー。ふぅ、喉乾いたぁー」
太郎はコンビニでおかかおにぎり、ポカリ、地図を買ったあと、駐車場に一台のトラックが止まっていたのを発見した。すかさず駆け寄ってみる。トラックの中には30台位のヒゲモジャモジャの男が足を窓から付き出して寝ていた。
「おっちゃん、おっちゃん」
男は眠たそうな顔で太郎をみた。
「俺さぁ、福岡出身で鹿児島まで行きたいんよね。けど、鹿児島っち、遠いやん?よかったら近くまで乗して行ってやらんね?」
男は言った。
「ボウズ、一万払いな」
「俺、一人旅してて金あんまないんだよ。夜寝るのも野宿やし。たのむよ、おっちゃん」
「いいかボウズよく聞け、人様寝てるの起こしやがって、さらに車に乗せてだぁ?甘ったれるのもいいかげんにしやがれ。それにお前は人に頼む時の礼儀ってモノを知らない。まず、それを身につけて出直してきな。世の中お前の思っているほど甘くはないぜ。」
太郎は叫んだ。
「けちくそじじい!」
太郎は歩き出した。初めて世の中の厳しさを経験したようで、自分が情けなくなった。15歳の太郎、地図を見ながら宮崎を目指し再び歩き始めた。
トンネルの中を歩いていると、携帯が鳴り出した。麻美からだった。太郎は複雑な気持ちでケータイをとった。
「もしもし」
「たろちん?あの日はゴメンね。やっぱり麻美たろちんのことが。。。プープー。」
「もぉしもしー」
トンネル内だったので、電波が途切れた。麻美が言おうとしたことは、あまり聞き取れなかったが、太郎からすればもうそんなことはどうでもよくなっていた。今、太郎がやらねばならないこと、それは鹿児島へゆくこと。こうなれば、太郎は失恋のことなどもう微塵も頭の底には残っていなかった。太郎は足を進めた。
今、太郎は山奥を歩いている。どうやら道に迷ったようだ。あたりも暗くなってきた。地図を開いて歩いてみる。ここが何処なのかもわからない。太郎は辟易した。
「困ったな山奥で野宿はヤバいだろ?うわっちゃぁ」
などどつぶやいている時、一台の車が通りかかった。その車は止まり、一人の中年の男性が太郎に声をかけた」
「お兄さん、地図など広げてどうしました?大きなリュックまで抱えて。」
「俺ヒッチハイクで鹿児島まで行きよんやけど、道に迷ったんだよ、じゃなくて迷ったんすよ。今どの辺かわかるっすか?」
太郎は地図をみせながら尋ねた。
「この先、歩いても山奥に進むだけだよ。私は今、街に行く途中だからついでに乗っていくかい?」
「マジっすか。。。?」
「マジだとも。若いのに一人旅感心するよ」
太郎は車に乗った。急に安心したのか、無性に自分の腹がへっていたことに気がついた。