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てっしゅう
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「不思議な夏」 第十章~第十二章

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「先だってお邪魔しました千葉先生が、同じ旅館に泊まられるなどということは、偶然ではなく与えられた縁だと感じます」
「そうよね、あなたは私達とは避けられない運命にあるのかも知れないですね」
「運命・・・先生のご先祖が私に繋がっているのかも知れません。お会いして色々お聞きしたくなりました」
「そんなふうに考えるのね。私とは違うわ、何もかも・・・」
「美香さん、31日から貴雄さんと一緒に行きます。向こうでお会いする事が楽しみです。先生とご一緒できるといいですね」
「ええ、必ずご一緒するわよ。一人でも行くから、ハハハ・・・」
「そうなの?強引なんですね」
「剣道家よ、押しの一手だから」
「ハハハ・・・そうでしたね。見習わなくちゃ」
「志野さんは、十分押しが強いですよ。わたしなんか勝負にならない」
「そうですか!控えめだと思っているのですが・・・どなたかにも同じような事を言われましたね、そういえば・・・」
「やっぱり、ハハハ・・・自分じゃ気付かないんだね。みんな同じです。人の振り見て我が振り直せ、と言うからね。お互いに気をつけましょう」
「ええ、そうします。では、向こうで・・・」

傍で聞いていた貴雄は、志野にいるもう一人の女友達を知った。そして意外な事実をこの後に知る事となる。

年末がやってきた。貴雄は荷物をボストンバッグに詰めて出発の準備をしていた。車で行こうと考えたが、雪が降ると困るので、電車で行くことにした。志野に小さなカバンを持たせて、自分はヴィトンの大きいバッグを持って出かけた。今日の旅行のために買ったものだ。もちろん志野はその価値がわからない。値段を知ったら・・・きっとビックリするに違いない。いや、軽蔑されるかも知れないとさえ思う。

瑠璃と亜矢は駅まで見送りに来てくれた。
「しいちゃん!行ってらっしゃい~お土産買ってきてね」
「行ってきます。楽しみにしててね、いっぱい買ってくるから」
手を振ってさようならをして電車に乗り込んだ。

「瑠璃ちゃんも行けると良かったのにね・・・仕方ないですね」
「そうだよ、亜矢さんが困るといけないからね」
「はい、帰ってきたらいっぱい遊んであげますから」

にこっと笑う志野の目は優しさに溢れていた。

電車は名古屋駅から長野へ、上越新幹線で上田まで行き、そこからはタクシーで旅館に向かった。大晦日の帰省や旅行でどこも満員の状態であったが、タクシーが角間に向かう道を国道から入ると、そこはもう誰も居ない静かな風情を保っていた。うっすら雪景色がより田舎を感じさせてくれていた。湯煙が目に入る目的地に着くと、小百合は表に出て二人を迎えてくれていた。

「志野ちゃ~ん!」大きく手を振る小百合を見つけると、志野は駆け出して行った。
「小百合さん、会いたかったです」

抱き合った二人を見て、観光客は親子の対面だと思っていた。良く見ると何処か似ているようにも見えるのだ。血筋なのだろうか、初めは感じなかった容姿だったが、見ようによって変わるという事を教えられた貴雄であった。

ロビーで案内を待っていると、どこかで見たような女性が近寄ってきた。
「木下さん!こんにちわ」
「まあ、美香さん、もう来ておられたの?先生もご一緒?」
「先生はまだなの。多分夕方になるんじゃないのかな。早めに私は来ちゃたの。荷物持ってあげる!」
「いいのよ、こんなの軽いから」
「じゃあ、彼の大きい方を持ってあげるわ」
「ご無沙汰です・・・木下貴雄です」受付から戻ってきた貴雄は山田にそう挨拶をした。頭を大きく下げて、挨拶を交わし、「山田美香です。よろしく」と返事した。

初めは気にしていなかった小百合も、千葉夫婦が到着して志野と知り合いだと解ったときは、ビックリした。それよりビックリしたのは、小百合と志野が知り合いだったことだろう、千葉にしてみれば。

食事の前に志野と美香は一緒に大浴場に入った。貴雄と千葉も初対面ではあったが、一緒に浴場に向かった。珍しい炭酸泉の茶色いお湯が、冷えた身体を芯から温めてくれる。秘湯中の秘湯、角間温泉の炭酸泉と真田水のお湯であった。

「ここのお風呂は炭酸泉なのね・・・初めて入るわ。志野さんは、二度目なの?」
「はい、そうです。真田水を探して偶然見つけました」
「真田水?いわれがありそうな名前ね」
「ええ、その昔真田家が万病を治すと湧き出る水を持ち帰り、飲んでいたそうです」
「へえ~良くご存知ね、志野さんは物知りなのね」
「入口に書いてありましたよ、ハハハ・・・」
「まあ!騙されたわ!ハハハ・・・」

大きな笑い声が浴場に響いた。男湯にいた貴雄たちにもその声は聞こえた。
「女性陣は楽しそうじゃのう、貴雄さん」
「ええ、そのようですね」

「ところで、紹介が遅れましたが、志野の夫になる木下貴雄と言います。お見知りおき下さい」
「ほう、ご結婚相手ということですな・・・好青年じゃ、志野さんもさぞ嬉しかろう。良い組み合わせで嬉しく思います」
「ありがとうございます。私の事は志野からお聞き及びでしょうか?」
「まだ何も聞いておりませんぞ。志野さんは不思議な女性じゃ。何かご存知なんじゃな?その口ぶりでは・・・」
「はい、志野を助けた縁から今に至っております。話せば長いのですが、先生はもう何かを見通してらっしゃるようなので、隠さずにお話します」

出逢いから、出生の事まで話した。
しばらくの沈黙を経て、千葉は重い口を開いた。

「なんということじゃ・・・そのような事が起ころうとは。わしも生きていて良かったというものじゃ。偶然にも志野さんと出会えることになって。剣の道で迷っていた事を払拭させてくれたのは志野さんじゃ。師は私ではなく、志野さんの方かも知れぬな」
「なるほど、そういうことでしたか・・・先生との出会いが志野を成長させてくれることになるでしょう。これからもご指導下さいませんか?」
「木下さん・・・ありがたい事じゃ、こちらが望むことだよ」

まだ15歳の志野は周りの大人たちに大きな影響を与えながら自身も成長してゆく、不思議な夏の出来事は弛みきった現代への警鐘なのかも知れないと、大げさに貴雄は思っていた。貴雄の人生もまた志野抜きでは考えられないようになり始めていたのだから。

「志野さん・・・志野って呼ぶわよ、構わない?」
「はい、お姉さんだからいいですよ」
「あら、言ったわね・・・こいつめ」顔にお湯をかけた。
「きゃっ!こうしますよ」志野もかけた。バシャバシャ修学旅行の女風呂のようになっていた。

美香は志野がまだ15歳であること、そして婚約者がいること、剣道では自分以上の腕前を持っていること、真剣で居合いが出来ること、どれをとっても優れていることが羨ましかった。それに、まだあどけなさは残るもののきっと成長したら女優のような美貌になるだろうことも想像できた。

お湯から出て身体を流している美香に志野は背中を流すと言った。タオルに付けた石鹸が程よく泡立ち、力の入った手で擦りあげる刺激に心地よさを感じていた。

「志野は上手ね。いつも彼にしてあげているの?」
「ええ?貴雄さんにですか・・・いいえしていませんよ」
「じゃあ子供の頃お父さんやお母さんにしてたの?」