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てっしゅう
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「不思議な夏」 第七章~第九章

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「女は浮気はしないのではないですか?少なくとも私はしません。考えられないことです」
「だから女は我慢をしないといけないと言うことになるのよね?」
「男の方も他の事で我慢をされていると思います。身体だけがすべてと考えたくないのです」
「夫婦と言うのはお互いに浮気をしないという約束で結婚するのよ。他にも大切な事があるけど、一番大きな事よ。好きであるという事はもともと他人である二人が一緒に家庭を作ってゆく上で絆になってゆく部分じゃないのかしら」
「亜矢さんがそう思われることは、解ります。生きてゆくことに不安がない世の中では、ちょっとしたことでも気になってくるのでしょうね。男の方も誘惑に負けたり、女の方もしたい事が増えたりしているでしょうから・・・」
「志野さんは、変なところで大人なのね。無邪気だったり、私より大人だったり、不思議な人ね。男の方から見たらとても魅力的に感じると思うね。貴雄さんがお幸せだわ・・・なんだか、一人で居るのが淋しく感じちゃうなあ」
「ママ!瑠璃が居るよ。淋しくならないで」
「そうね、そうだったわね。ママには瑠璃が居たわね。しっかりしなきゃ・・・」

すっかり長湯になってしまった。三人は貴雄が待つ部屋に戻って行った。

食事は部屋食になっていたから、貴雄の部屋で4人で食べることにした。風呂上りのビールにのどを潤し、相手の出来る亜矢と酔うほどに進んでいた。

「ママ、お顔が赤いよ。どうしたの?」瑠璃が心配そうに覗き込んだ。
「瑠璃、大丈夫だよ・・・お酒のせいで赤くなっているだけだから」
「瑠璃ちゃん、こっちへおいで・・・志野と一緒に食べよう」志野は亜矢が結構酔っ払っていることを気遣って、瑠璃を呼び寄せた。

「ゴメンね、志野さん・・・なんだか酔っちゃって・・・久しぶりなの、こんなに飲んだのは」
「構いませんよ、瑠璃ちゃんのお相手はしますから」
「瑠璃ちゃんは志野が好きだねえ?」貴雄はそう聞いた。

「うん、お姉ちゃんだもん・・・」
「そうか、お姉ちゃんか・・・」
貴雄は意外に子育てが上手いかも知れないと志野のことを見ていた。昔は子沢山だったから、姉や兄は下の子の面倒を見せられていたのだろう。自然にあやしたり、遊び相手になったり出来るようになっていた。

食事が済んで、瑠璃はまもなく寝てしまった。遠いところに来た疲れが出たのだろう。亜矢も部屋に戻り、瑠璃と一緒に寝てしまった。貴雄と志野は二人きりになった。毎日そうではあったが、なんだか今日は少し様子が違うように感じている。

頭の中で、「もういいかなあ・・・」そんな気持ちになっていた。志野はその気配に気付いたのであろうか、貴雄の隣に寄り添うように座り、身体を寄せた。手を握り合い、お互いの心が通い合う時間がずっと続いていた。

「志野・・・今夜は約束を破るかも知れない・・・」
「貴雄さん・・・はい、覚悟は出来ております・・・」

部屋の電気を消した。周りに灯りが無いから真っ暗になる。豆電球一つを残して、貴雄は志野の顔を見た。志野もじっと見ていた。やがて目を閉じる・・・貴雄の手が肩に触れた。


-----第八章 ふるさと-----

志野は待ち遠しかったときを迎えようとしていることに感動していた。思い起こせば、大阪城からあの目の中に身を投じた瞬間からこの時が来る事を運命付けられていたのだ。500年の隔たりをそれほど大きく感じることなくこうして暮らしてゆける事も、貴雄の存在あっての事だ。

もし貴雄に助けられなかったら、いま自分は何をしているのだろうかと考えると、空恐ろしくなる。多分誰とも話が出来ずにどこかへかくまわれてしまっているようになっていただろう。もしくは自ら命を絶っていたかだ。命の恩人である貴雄は年齢も外観もそして気持も志野にとって好ましいものだった。

戦国の世の中で勇猛な男はたくさん居た。地位も名声もそれなりに確立しているし、自分を養うだけの力も備えている人と出会う事は出来たのかも知れないが、目の前にいる貴雄のように、女性に対する優しさをも持ち合わせている人は居なかったであろう。この時代に来て男性が優しい事の変化に驚かされている。また、女性の社会的な進出にも驚かされた。

男と女は同じだと貴雄に教えられて、戸惑っていたが、世間との係わり合いの中でそれは身を持って理解し始めていた。志野は自分から求めていっても、はしたない事ではなく、厚かましい事でもないと感じていた。貴雄の手が肩に触れたとき、志野の押さえていたものが外された。

「貴雄さん・・・志野は、あなたのものになりとうございます」
「志野・・・それは、僕が言う台詞だよ。志野が好きだ、初めて逢った時からずっとそう感じていた」
「はい、私も同じでございました」

浴衣を脱いだ志野の身体は眩しかった。貴雄はどんなものにも代えがたい大切な宝物を今手に収めようとしていた。

涙が止まらなかった。堪えていたすべてを吐き出すように志野は声を出して貴雄の胸に顔をうずめて泣いていた。これまでずっと一緒に暮らしてきて不安や迷いなどはそれほど感じてこなかったが、自分で本当にいいのか・・・それは答えが聞けずにいた。

口で大丈夫だとか、大切な関係だからと言われ続けていても実際の暮らしぶりは兄弟のようだったから、志野の気持ちの中では不満に感じていた。もっと強く貴雄の事を感じたい!もっと深く自分の事を感じて欲しい!そんな葛藤がずっと渦巻いていた。

すべての答えを今夜聞く事が出来てその感動に涙を抑える事が出来なくなっていたのである。女の幸せは好きな人に愛されること、その人の子供を生んで育てる事そう母に言われてきた。隣で眠っているだろう亜矢を見ていて、子への愛情の強さや慈しみを幸せに感じている事が羨ましかった。しかし、亜矢には愛すべき夫が居ない、そして愛される幸せも感じられないでいる。自分が育った世界では、夫を戦で亡くす妻、子供を病気で亡くす夫婦、親を亡くして彷徨う子供達、貧しさから飢え死にする家族、みんな見てきた。そんな世界はここにはない。志野にしてみればそれだけで十分幸せなのだ。

自分が居た世界に家族も親戚も置いてきた。置いて来ざるを得なかった。予想できなかった出来事に振り回されて気が付いたら貴雄が傍に居た。近寄りがたい怪物でも、変人でも、桶屋の主でもない、自分の事を大切にしてくれた優しい男の人だった。好きになるのはその時から、時間の問題だったのかも知れない。

泣き疲れたのか、全部を出し切った安堵感からなのか、知らないうちに貴雄にもたれて寝てしまった。

志野は差し込む明かりで目を覚ました。隣に貴雄はいなかった。部屋にいる様子がない。起き上がって探してみたが、いなかった。一人でボーっとしていると亜矢と瑠璃がノックをして入ってきた。

「志野さん?起きている?」
「はい、今起きました」
「入るよ」
「どうぞ」
「しいちゃん、おはよう・・・抱っこして」
「瑠璃ちゃん!おはよう、おいで」

瑠璃は志野の膝に座って抱っこしてもらった。昨日からの想いが残っていたのか、強く瑠璃を抱きしめた。そして頬擦りをした。