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もう一人の私  (Another me.)

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翌日、高見沢は激安電気ショップへと出向き、早速キママテック社の新ソフトを買ってきた。

光り輝くCDの『アナザー・ミー』。それをパソコンに放り込み、立ち上げた。

説明書を読むと、これはパソコン内に高見沢と同一の人格を持つ『もう一人の私』を作ることができる。そんなスグレモノなのだ。

「なんと俺と同じ人格のヤツを、このパソコンの中に誕生させられるってか? 二万円ぽっきりで、そんなことが簡単にできるのかなあ? 

なんぼアホに、俺は人生生きてきたと言っても、今までの波瀾万丈の歳月の中で形成されてきた我が人格、そう簡単ではないぞ」

高見沢は、営々と築き上げ完成させてきた自分自身の人格を考えると、まだ半分信じられない。

人間五十年、下天の内をくらぶれば夢幻(ゆめまぼろし)のごとくなり。たとえそれが夢幻であったとしても、ここはプライドが邪魔をし、信じることに若干の抵抗があるのだ。

「CD一枚で、もう一人の私が作れるって、ホントか?」
自分の価値を見くびられたようで、少し不満。しかしその実は、人間なんてそんな大した生物ではない。

ソフトは、まず人格を成立させている『知・情・意』の情報を約3000個集める。
そしてそれらを組み立て、もう一人の自分を創造する仕組みになっている。

人格なんて、3000個の情報で充分なのだろう。人間は神様ではない。人間一人なんて知れたものなのだ。

「まあ、俺の失われた時間を取り戻すためには、背に腹は代えられないか、とにかくやってみよう」
高見沢はこう呟き、作業をスタートさせるのだった。