もう一人の私 (Another me.)
軽笑ミステリー 『もう一人の私』 (Another me)
「うっへー、これは何だよ!」
高見沢はパソコンの画面に向かって、思わず唸(うな)ってしまった。
一週間の海外出張を終え、やっと自分のデスクに辿り着いて、社内メールを開いてみたら、この始末。留守中に受信した未読メールの山、そしてまた山。
そのタイトル表示で、見事に画面が真っ赤っかに紅葉している。何回もクリックして画面を送ってみても、品のない赤色タイトルが際限なく続く。膨大な数の未読メール。
「お、お、お、おー! パソコンが燃えて爆発しそうだ!」
そうなのだ。
長いサラリーマン人生。高見沢一郎はそこそこの歳となり、責任も役職もそれはそれなりに付いてきている。そのためか、一日に送られてくるメールは五十通を下らない。
たとえ海外出張で出掛けていても、そんなことにはお構いなし。容赦はしないのだ。
高見沢に送信されてくるメールは、コピーで送られてくるメールの方が宛先メールより圧倒的に多い。
会社の中には、とにかくコピーだけでも回しておけという輩(やから)がなんと多いことか。メールさえ放てば、責任も一緒に手渡したという自己本位な勘違い。
それに加え、とりあえずコピーででも送り付けておけば、「知ってて当然ですよ」と主張ができる。
こんな魂胆の連中ばっかりなのだ。
作品名:もう一人の私 (Another me.) 作家名:鮎風 遊