小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「不思議な夏」 第四章~第六章

INDEX|6ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

志野は自分が今ここに居る事を証明出来るものが必要である事を知らされた。結婚も、就職も、そしてやがて生まれる子供のためにも絶対に要るのだと強く教えられた。

「私に異存はございません。貴雄さんとずっと暮らせますように、ご尽力をお願い申し上げます」
「ああ、志野さん、私も貴雄の事が心配だから役に立てるように努力するよ。任せておきなさい。いい報告をすぐにするから」
貴雄は喜んで志野と顔を見合わせた。

「伯父さん、ありがとうございます。何から何まで頼っているようで、申し訳ないです」
「貴雄、新次郎の悔しさを思うと俺は何でもしたくなるんだよ。たった一人の弟だったからな・・・それに木下家の家名を継ぐのはお前だけだしな、その事は忘れるなよ」
「はい、十分に心得ているつもりだよ。志野と晴れて一緒になれたら、男子が生まれるまで頑張るから、なあ?志野」
「そのような事を・・・答えねばいけませんか?恥ずかしいです・・・伯父様の前で」
「ワハハハ・・・仲が良いなあ、お前達は。志野さん、心配事があったらいつでもここにおいで、相談に乗るから。貴雄をよろしく頼みますよ」
「伯父様・・・志野には勿体無いお言葉です。何と感謝してよいやら・・・この身に代えても御守りします」

泰治は志野が頼もしく見えた。たった十五歳の娘から、なにかとてつもない大きなオーラが出ているように感じられたからである。

「次は仕事だな。家でずっと待っているのも辛いだろうから、勉強を兼ねて何か簡単な仕事から始められるといいなあ・・・」伯父はそう言った。
少し考えて、伯母が口を開いた。

「ねえ、あなた。お客様の伊藤様ね、あの方この辺りで貸衣装とか結婚式場のお仕事されていましたよね?」
「ああ、そうだな、本店は小牧市にあって、呉服屋と貸衣装と結婚式場にも出入りしていると聞いたな、それが?」
「ええ、志野さん昔の方だからお着物が着れたりされないかと思いまして・・・」
「そうか、そう言う事か」

志野の方を見て泰治が聞いてきた。
「志野さんはずっと子供の頃から着物でしたよね?」
「はい、そうですが・・・」
「では、自分で着物を着たり人に着せてあげたりする事は出来ますか?」
「もちろんです。私の周りの女性もすべて自分でしましたから」
「なるほど、今はね一人で着物は残念ながら着れない人が殆どなんだよ。だから着せる事を仕事に出来るんだよ」
「そうですか・・・私が着ているような洋服しか着ないとそうなりますね」
「そうなんだよ。知り合いの社長に着付けの仕事がないか聞いてあげるよ。もし向こう様が望まれたら受けてくれるかい?」

少し貴雄の顔を見て、頷くのを確認してから、
「はい、是非そうさせてくださいませ。私で役に立つようでしたら何なりと致しますので」
「じゃあ早速話してみるよ。後で貴雄に連絡しておくから」

二人は泰治と安子に礼を言って、さようならをした。志野が仕事をするならお互いに離れるようになるから、必要になるものがいると思い、帰り道に携帯ショップへ立ち寄った。


-----第六章 剣道-----

志野にはそれが何であるのか、解らなかったがとにかく貴雄の傍でずっとその機械を見ていた。説明は難しい、貴雄は自分が契約をして家に帰って志野に話そうと考えていた。

「これは志野に使ってもらうように買ったんだよ。どうなっているのかは話しても理解できないだろうから、簡単に言うと、離れていても、この携帯電話で話が出来るんだよ」
「ええ?どういうことですか?」
「ボクが会社に行っている時、家にいる志野にボクの携帯電話から、こうしてボタンを押してしばらくすると・・・ほらキミの同じものがピピピって鳴るだろう。蓋を開けて、左側の緑のスイッチを押してごらん」
「ここですか?」
「そうだよ。そしてこうして耳と口に当てるんだ」
「もしもし?志野かい」

機械の向こうから貴雄の声が聞こえた。傍で聞く声とは違う機会の中から聴こえて来た。
「携帯電話・・・では、もし大阪城に居てもこうしてお話が出来るのですか?」
「もちろんそうだよ。朝でも昼でも夜でも年中話せるよ」
「どこに居ても貴雄さんと一緒に居られるのですね。とても嬉しいです。なんという便利なものでしょう」
「ああ、でも充電しないとそのうち切れちゃうから、ここの模様が一つになったら、この充電器に先を差して、反対側をコンセントに差し込むんだよ。二三時間でまた使えるように戻るから」
「はい、気をつけています。私から貴雄さんと話すときにはどうすればいいのですか?」
「いまワンタッチボタンで設定しておいたから、ここのボタンを押してごらん・・・ほら、貴雄って表示されるだろう?そうしたら、電話をかけるというところへこの小さなバーを動かして色が反転したら押す」
「なにやら難しそうですね・・・練習しないと」
「電話番号はね11個の数字になっているから、それが自分の番号になるから覚えるようにしようね」
「自分の番号?」

説明は延々と続く・・・あっと言う間に夕飯の時間になった。

数日が過ぎたある日、志野は一人で家の周りを散歩していた。直ぐ前にある電車の駅の反対側には、公民館があっていろんな人が出入りしていた。何人かの子供達が竹刀を背負って通っているのを見て、後を着いて行った。中へ入ると、一番大きなホールで剣道の練習が行われているのを目にした。じっと見ていると、館の係りの女性が声をかけてきた。

「初めまして・・・剣道にご興味がおありなんですか?」
「いえ、その・・・少し懐かしく思いまして・・・」
「子供の頃にやっておられたのですか?」
「ええ・・・まあ、その少し前まででしたが・・・」
「そうでしたか。宜しければ中に入って見学して見られたらどうですか?あそこに立っているのが講師の先生です。同じ女性なんですよ、よかったらお話して見られては?」
「あの方が先生でいらっしゃるのですね・・・本当にいいのですか?」
「ええ、どうぞ、どうぞ・・・こちらですよ。先生見学の方が見えました、こちらの方です」
「志野・・・木下志野と言います。初めまして・・・」
「こちらこそ、ようこそいらっしゃいました。講師の山田と言います。失礼ですがお幾つでらっしゃいますか?」
「ええ、十・・・六歳です」嘘をついた、そう言わないと子供に見られそうだったからだ。
「じゃあ、高校生ですね?」
「いえ、違います」
「そう、まあいいですわ。経験がおありなんですか?」
「同じ動きではありませんが、似た経験があります」
「流派が違うということなんでしょうか?」
「よく解りません」
「一度手合わせしましょうか?面白いと思われたらご一緒に始められませんか?」
「ええ、でも付けているものを持っておりませんので・・・」
「それはお貸ししますよ。同じような体型の人から借りましょう」

講師の山田は、生徒の一人から防具を外すと、志野に着けるように勧めた。