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てっしゅう
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「不思議な夏」 第四章~第六章

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世の中が平和であったら、十五になれば嫁に行くのが普通であったから、もう夫と暮らしていてもおかしくはないと思えた。貴雄に会って、初めて大人として優しさと慕われる想いを感じられた。もう自分にはこの人しかいないとはっきりと心に決めていた。他の誰とも夫婦になる事はしないし、別れが来るなら、その時は自分も・・・最後のときになる、そう誓いを立てていた。たった二日間の時間は、それほどまでにお互いを近づける大きな現象だったのである。

車が駐車場に入る音が聞こえた。
「帰ってきた!」居ても立ってもいられないから外に飛び出した志野は、三階の廊下から手を振って、「貴雄さ~ん」と声を出した。何人かの住人がそれを聞いて、階段を上がろうとする貴雄に、「あら、ご結婚されたの?可愛いお嫁さんね」と冷やかされた。

「恥ずかしいじゃないか!他の奥さんに結婚したの?って聞かれたし・・・でも、嬉しいよ志野、ただいま!」
「お帰りなさい!」
貴雄は志野の手を強く握り締めた。志野は貴雄に抱きついてしまった。淋しさに堪え切れなかったのだろう。泣いていた。

今時こんな純真な子は絶対に居ないだろう。貴雄は自分が愛されている実感に嬉しさがこみ上げてきた。中に入って、テーブルに座り、志野の話を聞いてやった。テレビで見た事、ご飯をうまく作れたこと、少し掃除もした事、外で聞こえる小さな子供の声が気になる事、など色々と。

ままごとのように幼稚な二人だったが、お互いが必要と感じていることに差は無かった。
「志野、明日からしばらく会社を休むから、ずっと傍に居るよ」
「嬉しいです。志野は家のことやりたいので、片付けや、洗い物の仕方を教えて下さい。お風呂のお湯の入れ方とかも」
「一つずつ覚えればいいから・・・掃除はね、この器械のスイッチを押すと、ほら吸い込んでくれるから、こうして後は畳と床をなぞるだけ。洗いものは裏のベランダに置いてある、この器械に服を入れて、この備え付けの洗剤をスプーン一杯入れて、蓋をして、このスイッチを押すと後は干すだけになって終わる」
「絞らなくてもいいということですね?」
「ああ、終わってもし直ぐ乾かしたいなら、このスイッチを入れると乾燥までしてくれるよ。雨の日なんかはそうして」
「はい、雨の日はこのスイッチですね・・・全くすごいです。何もかも器械がするんですね」
「そうだね。便利すぎて逆に人が何も出来なくなっている。裁縫も、料理も、修繕も・・・髪の毛だって専門の人に切ってもらっているからね。短くしているからお洒落にしないとイケないらしい、ハハハ・・・似合わないのにね」
「お洒落?飾るということですか?」
「そうだよ、せっかく黒いのに脱色して金色にしている女性や男性がたくさん居るからね。ボクなんか信じられないよ」
「はい、私もです。親からもらった身体ですから、大切にしないと・・・髪は切った事がありません」
「生まれてから?ずっと?」
「小さい頃は切っていたと思いますが、ここ五六年は切っていません。長くないとお正月などに結えないですから」

カツラでは無く自分の毛で日本髪を結う仕来りの時代だったから、城仕えしている女性は殆ど志野のように伸ばしていた。

「明日は伯父のところへ行こう、早い方がいいから。そのつもりでいてね。今から買い物へ行くから出かけよう。布団買わないといけないからね。それに、先生から借りたスポーツウェアーも洗って返さなきゃならないから、同じようなものを買おう。家に居るときは着易いから」
「ありがとうございます。志野は昨日のように貴雄さんと一緒に寝たいです、ずっと・・・離れて寝ないといけないのですか?」
「志野・・・」
「志野は子供ですか?」
「そんなふうに思ったことは無いよ。今の十五は子供だけど、志野は十分大人だよ。そう思っている」
「ほんとうにですか?」
「ああ、ウソじゃないよ」
「志野は貴雄さんしか頼る人が居ません。このままずっと傍に居て構わないのなら・・・いつかお嫁さんにして下さい」
「志野・・・気持は今すぐしたくても法律がそれを許さない。十六にならないと婚姻は出来ない、規則の上ではね」
「ではあと一年待ちます。その間にたくさん学びたいと思います。仕事も見つけたいし、それで構いませんか?」
「そうしよう、志野の十六の誕生日に、一緒になろう」
「約束ですよ!志野は信じていますから、嬉しいです。貴雄さんに一生ついて行きますから・・・」
「ああ、約束するよ。ボクも一生離さないから・・・」

買い物を終えて、志野が選んだ魚を焼いておかずにして、炊飯器で炊いたご飯で食べた。魚が慣れていたのか、おいしそうに食べていた。

貴雄の伯父は住んでいるところから川を越えて西区にあった。電話を入れて自宅兼事務所になっている旧家に向かった。代々続く木下家の実家でもある。貴雄には一人伯父と伯母が二人居た。父は末っ子でいつも新ちゃんと呼ばれていた。木下新次郎という名前だったからである。母親は、妙子といい、出身は東京である。父が転勤していた時に知り合った。母の実家もまた旧家で徳川家由来の家臣の子孫であった。

亡くなった祖父が子供の頃よく酒の席で、「お前の父親と母親は昔は敵同士だったんじゃ。世が世なら、殺し合いをしていた仲なんじゃぞ!ハハハ・・・いまは目出度い世の中じゃの」とよく話していた事があった。車は玄関先に着いた。普段着を着せて志野と一緒に中に入った。

「伯父さん、こんにちわ。お久しぶりです。貴雄です!」
義理の伯母が出てきて、「あら、貴雄さん、どうぞこちらへ」と応接間に案内してくれた。
やがて伯父は顔を見せて、
「貴雄、久しぶりだなあ。その子か・・・話してくれた人は」
「志野と言います。初めまして、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「いやあ、立派な挨拶だ!感心ですわい。気楽にしてくだされ。貴雄の伯父で木下泰治と言います。こちらは妻の安子です。覚えておいて下さい」
「はい、承知いたしました。今後ともよろしくお願い申し上げます」
「貴雄、お前には過ぎたる躾の良いお嬢さんだな、ハハハ・・・」
「伯父さん、茶化さないで下さいよ」
「それに見たところ、非常に可愛らしいし・・・歳は幾つでしたかの?」
「はい、十五でございます」
「なんと!これまた驚きじゃわい、なあ、安子・・・」
「ほんとうに・・・そのようには見えませぬなあ・・・」

挨拶の後、貴雄は本題に入った。時々首をかしげながら伯父は最後まで聞いてくれた。半信半疑で時折志野に確認のために質問していたが、答えは正しくウソとは思えなかったので、黙ってしまった。

「う~ん、正直困りましたな。貴雄と一緒に暮らすのは良いとして、志野さんの戸籍が要るからな。どうしたものかな、安子はどう思うね?」そう泰治は聞いた。

「あなた、役所に事情を話してもきっと承認してもらえないでしょうね。私達の養子として迎え入れて、ここを戸籍にするしかないと思いますが、何か問題がありますか?」
「そうだな、問題か・・・そうすると貴雄と志野さんはいとこ同士になるから、結婚となると世間がなあ・・・」
「伯父さん、いとこ同士は認められていますよ。是非そうしてやって下さい、お願いします」