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てっしゅう
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「不思議な夏」 第四章~第六章

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「こちらのサイズでちょうど良いと思います。今お幾つでらっしゃいますか?」
「十五です」
「15歳ですか?そんなにお若いとは・・・ではまだ成長しますね・・・少し大きめのものにしましょう」
「お任せします」
「好きなお色はどれですか?」
「白が好きです。後は桜色のものにして下さい」
「かしこまりました。とても綺麗なお体をされていますね。羨ましいです。ご一緒の方はお兄さんですか?」
「ええ、はい、そうです」
「優しい方のようですね。ここまで付き添ってくださるなんて」
「はい、素敵な・・・兄です」

店員に呼ばれ、大きな紙包みに買い物した下着を入れてもらって志野は待っていた。カードで支払いを済ませ、次の売り場へと向かった。

「良かったね、好きなものが買えたかい?」
「はい、ありがとうございます。胸に着けるものは手間がかかりますね・・・上手くつけれるでしょうか?」
「それは・・・ボクにはわからないなあ・・・」
「先ほど、お店の人が身につけて帰りなさいと言われましたので、着けているんです。なんだか、窮屈で・・・くすぐったい感じがします。下も穿かないといけないのでしょうか?」
「いけないよ。そうしてくれ。それが習慣なんだから」
「解りました。慣れるようにします」

そう言えば志野の胸が幾分か大きく見える。何も着けていなかった時は感じなかったが、そこに目が行くようになった。視線を感じたのか、志野は赤い顔になっていた。しばらく沈黙が続いた。貴雄はそっと手を握ってにこっと笑いながら顔を見た。志野も笑ってくれた。「二人で歩くときはこうして手を繋いでいよう」そう言うと、「私もそうして欲しいです」と繋いだ手に力を入れて返事した。

明日からの生活のために買わないといけないものがたくさんあった。二人分になるのと、女性のためのものがあるから考えながら買い物をした。とりあえず日用品と箸や茶碗、着る物を何点か買って家に帰る事にした。あまりに多くのものが必要だから、考えきれなくなってしまった。明日にでも出直して、買う事にした。

「夜のご飯は家に帰って僕が作ってあげるよ。びっくりするものを食べさせてあげるから」
「貴雄さんが作るのですか?何でも出来るのですね。私もお手伝いします」
「助かるよ、じゃあ一緒に作って食べよう」
「はい、楽しみです」

玄関のドアーを開ける。志野は初めて今の時代の住いに足を踏み入れた。綺麗に整頓された家の中は、見慣れた畳と障子があって、ホッとした気分になれた。

貴雄は初めに風呂にお湯を入れ始めた。疲れた身体をお風呂で癒したいと思ったからだ。それに、ビールも飲みたかったし。買い物をした荷物を片付けて、台所のイスに座ってテーブルの上に夕食のおかずの野菜を並べた。

「志野、まな板があるから、このジャガイモとたまねぎとにんじんの皮をむいてくれないか」
「はい、包丁を貸してください」
「ここにあるよ、手を切らないでね。ゆっくりで良いから」

意外に手際よく皮をむき、水で洗ってまな板の上に並べた。指示通りに、ジャガイモとにんじんを切り分け、たまねぎも大きめに切り始めた。目が痛くなったのだろう、袖で擦っていた。
「代わろうか?目が痛くなったんだろう」
「はい、でも我慢します。仕方ないことですから」

貴雄は深鍋に油を敷き、牛肉をいため志野が切った野菜を一緒に入れて炒め始めた。
「最初に入れたのは何の肉ですか?」
「牛肉だよ、肩ロースって言う部分だけど」
「牛を食べるのですか?」
「そう言っただろう?今は牛を食べるって」
「そうでしたね。野菜と一緒に煮るのですか?」
「そうだよ。水を加えて煮たら、このルーを加えて出来上がり。カレーって言うインドの料理だよ」
「インド?」
「釈迦が生まれた、国の料理なんだよ」
「初めて聞きました。カレー・・・と言うのですね。お釈迦様が住んでいらした国ですか、西の果てと聞きましたが、遠いのでしょうね」
「そうだね、とても大きい国だよ。この国の何倍も大きい。後で世界がどうなっているか教えてあげるね。さあ煮えてきた、この黄色い固まりを割って中に入れて」

直ぐにカレーの強い香りが立ち込めた。
「良い匂いがします!初めてかぐ香りです。不思議な匂いですね・・・でも、おいしそうな予感がします」
「きっとものすごくおいしく感じるよ」

ご飯は、間に合わなかったので、炊けているパック詰めにした。

「志野、しばらくこのまま煮ないといけないからその間にお風呂に入るよ。帰ってきてすぐにお湯を入れたからもう入れると思う」
「はい、そうして下さい。お背中流しますので、用意が出来ましたら、呼んでください」
「それは嬉しいけど・・・それなら一緒に入るかい?」
「ええ?ご一緒にですか?本当に?」
「言ってみただけだよ。すまない、じゃあ呼ぶから背中流してくれ」
「はい、解りました」

変なことをつい言ってしまった。怒られなかっただけまだましだ。たっぷりと入った湯に身体を浸けると、大量の湯が浴槽からこぼれた。この瞬間がたまらなく好きな貴雄であった。入り口から、「貴雄さん、よろしいですか?」と声がした。イスに腰掛けて、背中を向けて待っていた。志野は、タオルを絞って背中を擦ってくれた。こんなことを当たり前にしていたのであろうか・・・誰にしていたのであろうか・・・そんなことを考えていた。時代によって価値観が違うように、女性のしていることも今では考えられないこともあるような気がしていた。

男性が圧倒的に優位な生き方をしていた訳であるから、命じられるままに、背中を流すことなど、侍女として当たり前のことだったのかも知れない。何のためらいもなく、「背中を流します」と言った志野の言葉がそれを物語っていた、と思えたからだ。

それ以上のことは決してしていないのだろうか、また強要されてはいなかったのだろうか、そんなことも考え始めた。貴雄には辛い方向に想いが募ってゆく羽目になったから、そこで止めた。
「ありがとう、もう出るからいいよ」
「はい、では私も入らせて頂きます」
「ああ、そうしなさい。背中流そうか?」
「それは・・・恥ずかしいので・・・」
「じゃあ、これがお湯の出るところだから、こうしてひねって使いなさい。シャワーは、ほらこうすると上から出てくる」
「キャッ!冷たい!」
「ゴメンゴメン、最初だけだよ。直ぐに・・・ほら温かくなるから、これで髪を洗いなさいね。これがシャンプーと言って石鹸だから」

貴雄は先に出て、ビールを飲んでいた。カレーは出来上がっていて、良い香りを放っている。志野がなかなか出てこないので声をかけた。

「志野!どうした?解らないことでもあるのかい?」
「いいえ、その・・・あまりにお湯が心地よいものですから長湯しておりました。とてもよいお湯ですね」
「ああ、温泉の素が入っているからね」
「温泉ですか?」
「そうだよ、前に行った所で買っておいた湯の華っていう温泉の素だよ。それを入れるとそこの温泉と同じ感じになるんだよ」
「湯の華・・・良い名前ですね。今すぐ出ますから」