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てっしゅう
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「不思議な夏」 第四章~第六章

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-----第四章 二人の住い-----


貴雄は休憩のために伊賀インターのサービスエリアに車を入れた。平日の夕方なので自家用車は少なく、トラックがたくさん停車していた。

「あの大きな車はなんですか?何かを運ぶものですか?」
「トラックのことかい。後ろの荷台って言うところに、たくさん荷物を入れて、運んでいるんだよ。飛脚屋さんかな、昔で言うと。一度にたくさん運べるから、多くの人たちに早く荷物が届くようになったんだ。たとえば、江戸、今は東京って呼ぶんだけど、志野が大阪の誰かに届けたい荷物を出したとするよね?大きさに関係なく、次の日には届けたい人のところに着くんだよ。1個でも10個でもね」
「それはすごいですね。たくさんの荷を一度に運べるようになっているのですね。大八車を押して何人かで運んでいるなどということは、原始的に思えますね。山の中を道はくぐっているし、川には大きな橋が架かっているし、空は乗り物が飛んでいるし・・・私は見るものすべてに感動を覚えています。頭の中が一杯になって考えられなくなることもありますが、貴雄さんに教えて頂いて、覚えてゆきます。志野には貴雄さんだけが頼りですから・・・」
「志野・・・何でも聞くと良いよ。この世で二人だけの仲なんだから、その、上手くいえないけど、君を理解できるのはボクしかいないから、遠慮は要らないからね」
「はい、お会いしたときからお慕い申し上げております。ずっと志野の傍にいてくださいまし・・・お嫌でございますか?」
「そんな訳ないだろう。ボクは・・・」
「なんですか?」
「いや、なんでもない。そうだ、ソフトクリームを食べよう。待ってなさい、買ってくるから」

白く冷たい食べ物に志野は恐る恐る舌を近づけた。その冷たさと、柔らかさと、とろけるような甘さに気がついたら半分ぐらい食べてしまっていた。
「こんなに美味しいものは初めて口にしました。ソフトクリームですね・・・何で出来ているのですか?」
「タマゴと牛乳だよ」
「牛乳?」
「牛の乳のことだよ」

志野が居た時代では牛は農耕用であり食用ではなかったから、乳を飲むことには驚いた様子だった。

伊賀のサービスエリアを出て車は東名阪に入った。周りの景色がお茶畑に変化する。四日市付近から車が増えてきた。夕方のラッシュ時間になってきたので、商用車やトラック、自家用車などで名古屋西料金所手前で渋滞に巻き込まれた。

「混雑してきたな、これはねラッシュと言ってね、会社が終わる時間になると一斉に帰る車で同じ方向が混むようになるんだよ。朝は出勤時間に合わせてまた混むしね。皆、車で通勤しているからこうなるんだよね」
「仕事に出かけるのに車で行くのですか?」
「そうだね、歩いてゆくという習慣がないから、近くても車だね」
「そうですか、それでこのように同じ時間に集まってしまうのですね」
「そうだよ、特に大阪とか東京とか、今向かっている名古屋とかの大都市は混雑が激しいね」
「大都市?大きな町ということですね」
「そうだ。この先にある名古屋市はキミのいた時代の大阪よりも人が多く住んでいるよ」
「そんなにですか!では江戸、いや東京はどのぐらい人がいるのですか?」
「ん~、多分1300万人程だよ。解るかい計算が?」
「はい、とても多いということがわかります」
「なるほど、そうだねハハハ・・・」
「計算は苦手です。数をかぞえているとよく間違えるので怒られておりましたから・・・」
「今はね、計算する機械があるから間違えないよ」
「計算する機械?足し算とか引き算とかやってくれる道具があるというのですか?」
「そうだよ、掛け算や割り算まで出来るよ」
「それは欲しいです。私にも使えますか?」
「簡単だよ、買ってあげるよ」
「嬉しいです」

渋滞を抜けてETCを抜け、名古屋高速に入った。環状を回って北に進み楠出口から下へ降りた。貴雄の住いは、302号環状道路を東に進んで、県道を南に進んだところにあった。

貴雄は父親の転勤で子供の頃から大阪に住んでいた。大きな会社の重役だった父が会社から譲り受けた住宅に親子三人で暮らしていた。南船場の中心部にあった住いは大阪では豪邸で、みんなが羨ましがっていた。「さすがに何とか商事のえらいさんやね。住んでるところが違うさかいに」と冷やかされて育った。大学の卒業間近に両親が不運な交通事故で命を落とし、一人きりになった貴雄は、伯父の勧めで大学を卒業した後、今のところへ引越しをしてきた。親の財産が転がり込んだ貴雄はどうしてよいのか解らなかったので、父の兄で弁護士をしている伯父に相談をして、今のアパートをその遺産で建てて、税金対策と将来の収入安定を図ってもらった。そのアパートの大家という形で最上階の端っこに住まわせてもらっていた。形の上では、住人になって家賃を払っていた。アパートの管理を任せている不動産屋に家賃収入から管理費と自分の家賃を差し引いた金額を毎月振り込んでもらっていた。固定資産税を払わないといけないので、銀行に積み立てもしていた。したがって、レンタルショップで仕事などしなくとも食ってはいけるのだが、身体が鈍るので仕事に出かけるようにしていた。

それに、社会保険や健康保険なども必要だから、自分で手続きをするより、雇われて面倒見てもらったほうが楽だとも考えた末でアルバイトではなく、パートとして雇用してもらっていた。車のローンなんかもすんなりと通ったり、クレジットカードも持てるのは、家賃収入があることと、伯父の名前が効いていた。保証人として完璧だったからである。伯父は面倒見がよく、貴雄を可愛がってくれた。最終的には志野のことも伯父に相談しようと考えている。秘密には到底出来ないことだと思えたからである。

「志野、もう直ぐ家に着くけど、買い物をしてから帰ろう。君のために必要なものがたくさんあるからね」
「お世話かけます。志野は生きてゆけるだけで構いません」
「何を言っているんだ。妹として恥ずかしくない格好と暮らしをして欲しいよ」

恋人として、と言いたかったけど、まだ早い。

家の前を通り過ぎて、庄内川を渡りショッピングセンターに買い物に行った。混んでいる時間を過ぎていたので、比較的ゆっくりと買い物が出来た。貴雄は恥ずかしさを堪えながら、下着専門の店に入り、志野のために何点かを買うことにした。

「すみません、妹に買いたいのですが、サイズを測って、ブラと、その・・・下着を見繕っていただけませんか?本人と話して、そうですね・・・着替えがいるから3組ほどお願いします」
店員は恥ずかしそうな貴雄を見てくすっと笑い、なかなか面倒見の良い兄だと思ったらしく、快く引き受けてくれた。

「志野、初めに言ったけど、洋服を着るために下着が要るんだ。お店の女性の言うことを聞いて恥ずかしがらずに自分に合うものを買いなさい。僕は外で待っているから」
「貴雄さん・・・言われるとおりにしていれば良いのですね?」
「そうだよ、任せておきなさい。色だけ自分の好きなものを選ぶと良いよ」

試着室に入った店員は志野が何も着けていない事に驚いた。訳があると思い、聞かなかったが素裸の女性に勧めることは初めての経験だったようだ。