素晴らしい偶然
白状します。実は先程、お酒を飲んだのです。同性のクラスメイトと一緒に居酒屋へ行き、のろけ話を聞かされたのです。友人と、彼女の恋人との幸せな話を聞いているときに、わたしはあなたを想っていました。あなたに会って、お話をしたいものだと、切望していました。あなたの絵が好きです。あなたのお姿が好きです。あなたのお声が好きです。きっと、誠実な人柄に違いないあなたを、つよく想っています。
強引ですね。明日の夜、午後八時から「白夜」でお待ちします。あなたの会社の近くにある喫茶店ですから、ご存じですよね。午後九時まで待っていますので、できればお会いしたいと思っています。
吉野は仕事中に、何度もあの少女を思い出していた。
あの可憐な少女が、いまは二十歳の娘になり、吉野にラブレターを送ってきた。その娘が会って話をしたいと云う。一緒に酒を飲みたいようでもある。そして、一緒に絵を描きに行きたいと云う。更に、新たに肖像画を描いてほしいとも云う。
勿論、そのような、願ってもないチャンスを逃す筈はない。吉野は絶対に今夜、彼女に会いに行くつもりだ。上司とけんかをしてでも行きたい。
仕事が手につかない。「大好きなもうひとりの男性」とは誰なのか。それが気になってならない。胃が痛くなりそうな程だ。
重大なミスをして上司に呼ばれ、叱責された。
「どうしたんだ。この、すっとこどっこい!こんなドジは三年前に卒業した筈だぞ!」
かなり太めの上司は呆れ顔で云った。