素晴らしい偶然
写真ができ上がったのは、その三日後だった。初めてそれを見たとき、あまりにも巧く撮れていたので吉野は驚いた。残雪の美しい山々を背景に、野の花を持ってたたずむ美少女の映像は、写真の段階で、既に見事な絵になっていた。
写真を撮る直前に、吉野はひとめ惚れをしたのかも知れなかった。なぜそこに居たのかも、どこの誰ともわからない、ショートカットの美しい少女だった。彼はその写真を大きく伸ばしたいと、思った。
近所の写真屋に、焼き増しを依頼してから数日が過ぎた。引き伸ばしてもらった少女の写真を受け取った彼は、改めてその少女の魅力に耽溺した。
その数日後、写真を見て彼は油絵に描き始めた。だが、その絵は何度描き直しても、納得のできるものにはならなかった。少女の魅力的な、無垢な、そして、際立って清楚な雰囲気が、どうしても表現できないのだった。吉野は意気消沈し、写真も絵も、共に押し入れに仕舞いこんだ。
二年が過ぎた。その朝、勤め先の近くの駅で、吉野はその少女を見かけた。暫く振りに再会した少女は随分大人びて見え、女性としての魅力に包まれていた。その姿はもはや「少女」ではなかった。本当にその女性が、あの少女なのかどうか、確信は持てなかった。仮に話をすることができたとしても、どのように云って確認すれば良いのか、判らなかった。