素晴らしい偶然
「なるほど。そうでしたか……はい。到着しました。おう、ぴったり八時四十五分です」
吉野は慌てて紙幣を三枚出した。
「ありがとうございます。今日のことは一生忘れませんよ。おつりは結構です」
「そうですか。ありがとうございます。レシートと私の名刺です」
「はい。ありがとうございます。お気をつけて、お仕事、頑張ってください」
双方とも笑顔で別れた。
吉野は待ち合わせの場所に走った。階段を登り、奥の方の観葉植物の陰の席に近づくと、そこだけに美しい花が咲いているようにも思える、山中美由紀の好ましい姿があった。吉野の心臓が破裂しそうなほど、鼓動が脈打っている。
「こんばんは。お待たせしました」
美由紀は嬉しさを顔に出し、透明感のある爽やかな声で挨拶した。
「こんばんは。ありがとうございます。嫌われたのかなって、心配していました。どうぞ」
ウェイトレスがオーダーを取りにきて、漸く吉野は美しい娘の前に座った。彼は笑顔を紅潮させている。美由紀も、素晴らしい笑顔を紅く染めている。吉野は確認してからコーヒーをふたつ注文した。
「あっ!お父さんの名刺」
吉野はそれを手に持ったまま来たのだった。その名刺を無意識にテーブルに置いたのである。