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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「不思議な夏」 第一章~第三章

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「大切なところ・・・いや!恥ずかしい・・・そのような事を仰るなんて」

身体をすくめて、両手を胸の前にしっかりと当てて、目をそらした。

「志野、ボクは男だからいいにくいけど、大切な事なんだよ。聞いて欲しい。これから着る先生から借りた服は、普段に着るものではないから、安心だけど、人前に出る普通の女性はこれからの暑い時期、肌を露出するから、下着を着けなければ丸見えになってしまうんだよ。恥ずかしがらずに、後で買ってあげるから身につけるようにしなさいね」
「貴雄さん・・・男の方の前で女は肌を見せる事は出来ません。見せずとも良い衣装はありませんか?」
「ないよ。今はそういう時代じゃないから。慣れれば暑さをしのげるし、快適だよ。無理しても着て欲しい。それが当たり前の事なんだから」
「はい、言うとおりに・・・わがままを言いました、許してください」
「いいんだよ、ゆっくりで構わないから、嫌な事は嫌とはっきり言ってくれれば、ボクも譲歩するところはするから。さあ、着替えて!」
「後ろを向いていてください・・・恥ずかしいですから」
「そうだったな・・・じゃあ外に出るから、終わったら扉開けて」

白で横に黒いラインが入ったパンツと組み合わせの上着は長袖で志野の体の殆どを隠していた格好になった。ただジッパーだけは止めれなくて、前が肌蹴ているまま困ったように押さえていた。
「これはどのようにするのですか?」
「手を離してごらん。ここをぎゅっと通して、そして上にこれを引っ張りあげると・・・ほら、閉まったでしょ」
「すごい!なんということ・・・便利なものですね」
「ファスナーって言うんだよ」
「ふぁ・すう・ん・なあ?」
「ファスナー・・・ファスナーだよ、ハハハ・・・」
「笑わないで下さい!ファスナーですね。覚えました。変な名前ですね?」
「外国でも使われているから、そういう名前になっているけど、今の世の中は殆どが日本らしくない呼び名になっているんだよ。これからもっと驚くことばかりに出会うよ。覚悟しておきなさいね」
「心得ました。貴雄さんの傍を離れませんから・・・一人ではきっと歩けないような気がします」

まっすぐに立っている、志野はどう見ても、そこら辺の女子高生にしか見えなかった。長すぎる髪の毛以外は。

「では、先生にご挨拶をして、お金を払って外に出ましょう。ボクの後を離れないでね」
「はい、離れませんとも」

ナースセンターに顔を出して、二人で挨拶をした。宮前医師にも挨拶をした。支払い窓口でカードで精算を済ませ、玄関ドアーから外に出た。昨日の雨は上がり、空は青く晴れていた。タクシーを呼んで、大阪城公園の駐車場まで行くことにした。そこに自分の車が昨日から停めてあるからだ。

志野は始めて車に乗った。キョロキョロして不思議なものを見るように落ち着きがなかった。仕方のない事ではあったが、手を握って落ち着くように言い聞かせた。志野も貴雄の手をしっかりと握り返していた。時代が変わっても人は手を握る事で信頼感とか安心感とかを得られるのだろう。恋愛感情とは別のスキンシップがそこにあった。

直ぐにタクシーは大阪城に着いた。目の前にそびえる大阪城は綺麗に修繕された建築当時の姿を呈していた。
「焼け落ちたはずですが、建て直ししたのですか?」
「そうだよ、12年前に色直しをしたんだよ。慶長20年に消失して、その後12年後に秀忠が築城したのが今の基礎になっているけど、何度も燃えて最後は今から78年前に建てられたものがこれだよ」
「秀忠殿が、再築されたのか・・・ということは徳川の居城になったということですね」
「そうだね、ずっと天領になっていたからね。15代徳川将軍慶喜が薩長連合軍に明け渡した後燃えてしまったらしいが、大阪市民の寄付で建てられたんだよ、今の元がね」
「15代・・・そんなに徳川の世が続いたのですか・・・こうして大阪城を見れる事はうれしく思います。中に入れるのですか?」
「もちろん誰でも入れるよ。天守閣へも行ける」
「本当ですか?是非案内して下さい!」

志野の頼みを聞いてやることにした。しかし、スポーツウェアーじゃみんなが変な目で見るだろう、でも今は仕方なかった。

貴雄はタクシーから降りてもずっと志野と手を繋いでいた。志野は少しはばかられたが、今は傍を離れたくない思いからそうしていた。貴雄の自分への思いはその手のぬくもりから十分伝わる。殿方、いや男性と初めてこうして仲良く接している自分が不思議だった。生まれた時代ではありえない事だったからである。

入口でチケットを二枚買って、中へ入った。懐かしくもありしかし自分が住んでいたところとは別の世界にも感じられた。それは、照明や展示棚、掲示板などの見慣れないものが多かったからである。城内にガイドが居た。入場が少ない日だったので、傍に来て「宜しければ、ご案内させて頂きましょうか?」と声を掛けてくれたが、「いいえお構いなく」そう答えた。多分その案内ガイドより、志野の方が詳しいと思えたからだ。

天守閣まで上がってきた。晴れて大阪の町は見晴らしがいい。貴雄は久しぶりの眺めに子供の頃両親に連れられてきた事を思い出した。
「志野、小さい頃、親に連れられて一度ここに来た事があるんだ。この望遠鏡で自分の家が見えたときは興奮して叫んだよ。家が見える!ってね」
「望遠鏡?この覗くようなものの事ですか?」
「そうだよ。見てごらん・・・ちょっと待ってね100円入れるから」
カチッと音がして、見えるようになった。志野は恐る恐る目を当てて覗いた。
「なんということでしょう!遠くのものがこんなに近くで見えるなんて!面白い・・・貴雄さん!あの高い塔のような建物はなんですか?」
「南のほうだから・・・通天閣かな。ちょっと見せてごらん・・・そうだね。大阪では一番有名な建物だよ。覚えておきなさい。通天閣、と言って、観光名所になっているから」
「通天閣・・・ですね。はい、今度連れて行ってください」
「いいよ、また大阪に来よう」

志野はキャアキャア声を上げて覗いていた。風になびかせている長い黒髪から発する色気のようなものが、貴雄の目から感じられた。15歳の少女に魅せられてゆく自分が少し怖かった。


-----第三章 外国人-----


見るもの、聞くもの、すべてが驚きであり、初めてのものであったから、志野は細かく聴くことをせず、自然に目が慣れるようにしようと考えていた。何からどう聞いて良いのか解らなかったし、貴雄にいちいち、「これは、あれは?」と尋ねることが迷惑になると思ったからでもあった。

天守閣の回廊を一回りして、大阪の四方を眺めた。海が見える。初めて城に入って天守閣へきた時に、海が見えたことに興奮したことを思い出していた。
「貴雄さん、志野は生まれて初めてここから海というものを見ました。どこまでも続く水面にこの地が海に囲まれていると教えられたことを理解しました。その海の彼方に違う国があるということも秀頼さまに教えて頂きました。どのような国があるのかご存知なのですか?」