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あなた待ち島

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 義経は鎌倉への四連勝の凱旋帰国が許されなかった。胸が痛んだ。
 しかし、兄頼朝と弟義経の不幸はこれだけでは終わらなかった。さらに続いて行く。
 頼朝は弟・義経を朝敵として、ついに追討の命を下してしまうのだった。この時義経は、兄・頼朝との主従、そして兄と弟の関係は終わったと思った。
 そして、その追討から逃れるように、秋も深い一一八五年十一月、静御前を連れて西国へと旅立った。

 しかし、問題があった。もうその頃には、二人の愛の証、静は身ごもっていたのだ。
 二人は吉野から西国へ抜けようとしたが、山道は険しい。そして吉野山は女人禁制。
 身ごもった静を連れての逃避行。吉野の麓から前へ進まない。義経はもう進退窮まった。
「静、お前の身体とややの事を思えば、これ以上は連れて行けない。京へ一旦戻って欲しい」
 義経はそんな苦渋の選択をせざるを得なかったのだ。

 秋の山の上には、ぽっかりと大きな月が上がっている。その柔らかな月の光が白くぼやっと二人を浮き上がらせる。
 静にはもう言葉はない。あるのは涙だけ。
 悲しい。
 ずっとずっと一緒にいようと誓ったはずなのに。
 悔しい。
 静は義経の胸の中に埋もれて、とにかく涙を零すしかなかったのだった。

 静は法王の宴席で、義経に初めて逢った。そして恋に落ちた。しかし、これほどまでに早く別れがくるとは思っていなかった。
「二人のややを、しっかりと産んでくれないか」と義経が言う。
 静はそんな言葉が憎い。そして静の涙はもう涸れてしまった。
 男の世界がどういうものなのかはわかっている。しかし静は、義経の愛、それだけをもう一度しっかりと心に刻んでおきたい。
「義経さま、私のこと……本当に好き?」
 静は義経を真正面に見据え、はっきりと訊いた。
「たとえ、この世が果てようとも、静を永遠に愛するよ。そのために、静のところへ必ず戻ってくる」
 義経はそう力強く答え、静を強く抱き締める。

「また、きっと逢えるのですね。それじゃ、義経さまが若い時にしばらく身を隠されていた琵琶湖の竹生島で……、いつまでもあなたをお待ちしております」
 静は最後の力を振り絞って義経に伝えた。
「その……あなた待ち島へ、きっときっと、静を迎えに行くから」
 義経は約束をした。そして二人は最後の熱い、しかし、それはそれは悲しい口づけを交わす。
 そんな抱き合う義経と静を、吉野の青い月が、その光りを涙のように滲ませながら照らし出しているのだった。


作品名:あなた待ち島 作家名:鮎風 遊