あなた待ち島
頼朝と義経が黄瀬川で対面してから三年の歳月が流れた。
兄・頼朝はなかなか義経を戦に使わない。完全に外している。
しかし、義経は何回も戦への出陣を願い出た。そして、一一八三年にやっと許されたのだ。
それは都へと上洛し、我が物顔で悪行を振るっている木曾義仲を討つこと。頼朝はわざわざそんな大役を、つまり強敵を征伐すること、それを義経に命じたのだ。
場合によっては返り血を浴びる可能性が高い。しかし、義経は嬉しかった。自分のプライドに懸け、負けるわけには行かない。
一一八四年一月二〇日、義経二六歳は宇治川から京に攻め行った。計画を綿密に練り、行動を大胆に取った。その結果、木曾義仲三一歳を討った。
そして、ここから義経は騎虎(きこ)の勢いとなったのだった。
一一八四年二月七日、一の谷ひよどり越えで平氏軍を破る。そして一年後の一一八五年二月一九日、奇襲にて屋島の戦いに勝つ。
一一八五年三月二四日には壇ノ浦の戦いに勝利し、平氏を滅亡させてしまう。
華々しい全戦全勝。宇治川の戦いを入れて、四連勝なのだ。
義経は源氏のために、また兄のために、そんな快挙を成し遂げたのだった。
義経は都の人たちの歓喜の中で凱旋する。今や都一番の大スターとなった。
しかし、義経は後白河法王の誘いに乗り、法王に接近し過ぎた。他にもいろいろな原因はあっただろう。だが、これにより舞い上がり過ぎだと兄・頼朝の堪忍袋の緒を切らしてしまったのだ。
義経二七歳は今までの事態を丁寧に兄に報告したい。そのために、一一八五年五月一五日、鎌倉に凱旋帰国しようとした。しかし、頼朝は義経の鎌倉入りを許さなかった。
「手柄を立てたのに、なぜ、これほどまでの仕打ちを……」
義経はどうしてこのようになってしまったのかがわからない。悔しい。
そんな落ち込んでしまった義経を、後白河法王が宴席へと招いてくれた。
後日振り返ってみると、その宴席に出席したことこそが、義経にとって人生最大の出来事になってしまったのかも知れない。
そう、その宴席には、儚くも美しく舞う一人の白拍子がいたのだ。その白拍子こそが都一番のアイドル、静御前十八歳だった。
義経と静御前、二人はまるで赤い運命の糸をたぐり寄せられ、そして導かれたかのように出逢ってしまった。
「我が心が、辛い」
「義経さま、その運命を嘆かないで下さい」
「静、自由に野山を、舞い飛ぶ蝶のように、舞ってくれ」
「はい、命ある限り……、義経さまのおそばで、ずっと舞わさせていただきます」
「静、二人の愛を永遠に──契ろうぞ」
こうして二人は、それはそれは悲しい愛の淵へと落ちて行くことになってしまったのだ。