あなた待ち島
時の流れは早い。あれから七年の歳月があっと言う間に流れた。
凛太郎は別れた後も由奈のことが忘れられない。その心の傷を払拭するために、新しい恋もしてみた。しかし、うまく行かなかった。
とにかくもう済んでしまったこと。由奈のことは忘れなければならない。そのために仕事に没頭し続けてきた。そのお陰か、仕事上では成果もあり、男として、この複雑な現代社会を生き抜いて行く自信もでき、その迫力も備わった。
そんな仕事だけに埋没する日々の中で、凛太郎はまるで赤い糸に手繰り寄せられるように、由奈にばったりと街角で出逢ってしまったのだ。
「凛太郎さん、最後の約束、憶えてる? だから……あなた待ち島に連れて行って」
由奈は忘れていなかった。
「そうだね、行ってみようか」
凛太郎は由奈との約束を果たすべく、今朝、京都から一緒に出掛けてきた。そして今、二人は竹生島、別名『あなた待ち島』に向かう観光船に乗船している。
寄せ来る波を越え、白波を掻き上げて、船はどんどんと進んで行く。それはまるで八五〇年前の過去に逆戻りするかのように。
凛太郎と由奈は観光船に乗って、湖の北に浮かぶ神秘な島、竹生島に向かっている。そして二人は、はるか昔の儚くも悲しい純愛物語、義経と静御前に思いを馳せるのだった。
時は、一一五九年の一月。義経は源義朝(よしとも)の九男として生まれる。
母は、義朝の妾の常磐御前(ときわごぜん)。九条院雑仕で、都の千人の女性から一人選ばれた聡明で絶世の美人。
そして、世は乱世。その年の十二月、父・義朝は平治の乱で挙兵する。その時に、三男の兄・頼朝は初陣を果たす。
しかし不幸にも、翌年の一月、父・義朝三八歳は敗死してしまう。そして、兄・頼朝は関ヶ原の雪深い山中で捕まる。その後、十三歳の時に流罪の刑を受け、伊豆国蛭ヶ小島に流される。
この敗戦で、義朝の妾、二三歳の常磐御前は今若/乙若/牛若(義経)の幼子を連れて山野を彷徨う。
しかし、母・常磐は強かった。三人の子供を守るために身も心も捨ててしまう。
夫を殺した仇敵の平清盛に、自ら妾になることを申し出る。そして、その地位におさまるのだった。
義経は、その後母・常磐と四歳まで過ごすが、鞍馬に移される。義経(牛若)は、鞍馬で一所懸命文武両道の修行に励む。