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あなた待ち島

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 琵琶湖は約四百万年前にこの世に生まれた。世界でも三番目に古い古代湖とも言われている。そしてそこには、その時からずっと存在し続けてきた島がある。
 それは……竹生島(ちくぶしま)。
 周囲二キロメートルの小さな島、琵琶湖の奥にひっそりと神秘に浮かぶ。
 今はもう秋も終わろうとしている時季。しかしそれにも関わらず、島は深緑。その緑の沈影を、静まりかえった奥琵琶湖の湖面に映し出させている美しい島なのだ。
 凛太郎と由奈を乗せた観光船は、そんな島に向かってあと15分もすれば到着することだろう。

 凛太郎は日々仕事に追われている。時間に余裕などはない。
 しかし、凛太郎は今日貴重な休日一日を充て込み、由奈をピックアップし、京都から今津までドライブして来た。そして、二人は観光船に乗船し、この竹生島を訪ねようとしている。

 二人にはその理由があった。
 凛太郎は蒼白き学生時代を京都で過ごした。その時に、噂で聞いたことがある。
 源義経と靜御前(しずかごぜん)。その純愛の旅路の果てに、竹生島で再会したと。

 京都は一千年の古都。その噂は、義経が生きていた頃からおよそ八五〇年の時を超えて現代に伝えられてきたものなのだ。
 源義経と靜御前は、日本歴史上の悲劇のヒ−ロ−とヒロイン。そんな二人を最後に結びつけた所、それが琵琶湖の最北にひっそりと浮かぶ竹生島だと言う。
 そして人たちは、そんな島を……『あなた待ち島』とも呼んできたのだ。


作品名:あなた待ち島 作家名:鮎風 遊