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あなた待ち島

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「今度、私……結婚することになったのよ」
 凛太郎は由奈からそう告げられてしまった。そして、それにも関わらず、由奈は「私、ずっと、凛太郎さんのことが好きだから」とも言う。
 凛太郎はこんな状況をどうすることもできないのだろうか。
「凛太郎さん、ありがとう。また、あなた待ち島に連れて来て欲しいわ。時々、二人の永遠の愛を確かめたいから」
 由奈はこんなことまで言い出している。
「そうだね」
 凛太郎はそれに反し、そんなあやふやなことを呟いてしまう。

 由奈がまた泣いている。凛太郎はその理由が何なのかわかっている。
 七年前、二人が別れる時に由奈は言った。「今度、いつか逢えた時に、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」と。
 そして、凛太郎は約束をした。「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」と。
 しかし、「私、ずっと待つわ」と言っていた由奈が……結婚をすると言う。そして今度は、涙を滲ませながら背中でせつなく囁くのだ。
「私たちは、きっとまだ、旅が始まったばかりなんだね。また、逢えるわよね」

 凛太郎は湖の遠くを眺めながら、ただ黙って由奈の心の叫びを聞く。
 そんな時だった。凛太郎は、一艘の小舟、それがこちらに向かってやって来るのを、はっきりと見るのだ。
 やつれた武者が一所懸命に船を漕いでいる。それは静御前を幸せにするために、一途に生き延びて来た義経の幻影なのだろうか。

 いや、それは違った。よくよく見ると、それは凛太郎自身そのものだったのだ。
 凛太郎は、一艘の小舟を必死に漕ぎ来る自分自身の幻影を見てしまった。それは今の自分の姿。しかし、義経の一途さからはほど遠い。そして今、真剣に思う。
「俺は一体何を……躊躇しているのだろうか?」 
 凛太郎は歯をぎゅっと噛み締めた。
「俺の一生は、一人の女性・由奈さえ幸せにできないのか」
 凛太郎は由奈の方へと振り向き、言葉を発する。
「由奈、俺たちの今までの旅は……、もうここで終わらせよう」 
 由奈がきょとんとしている。凛太郎はかまわず続ける。
「七年前の約束通り、もう一度やり直そう。だから、一緒になって欲しい」


作品名:あなた待ち島 作家名:鮎風 遊