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あなた待ち島

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 義経があなた待ち島に降り立った。
「静、約束通り、今帰ったぞ」
 義経が力強く静に声を掛けてきた。
「殿、お帰りなさいませ。長年のお働き、ご苦労様でございました」
 静もきちっと返した。すると義経は静のそばまで、ゆったりとした歩調で歩み寄ってきた。そして静を思い切り抱き寄せる。
「静、苦労を掛けてしまった。だがやっと二人になれた。これからここで、もう一度、我々二人の永遠の愛を築き上げて行こうぞ」
 義経はそう囁きながら、もっと強く静を抱き締める。静は義経の胸の中で、「はい」と深く頷く。もうそれ以上の言葉は必要ない。
 そして堰を切ったように……、大粒の涙が一つ。そしてまた一つ。

 その一粒づつの涙が今までの苦労と悲しみを、そこに詰め込んで湖面へと落ちて行く。
 その波打ち際の水面には、いくつもの涙の小さな輪ができる。そして、それらの輪のすべてを、寄せ来るさざ波が消して行くのだった。


 凛太郎と由奈。二人は今寄り添って、茫然と遙かなる湖の眺望を眺めている。そして、義経と静御前の純愛物語の結末を、同じように考えていたのかも知れない。
 由奈が突然聞いてくる。
「ねえ、凛太郎さん、義経はこのあなた待ち島へ戻って来て、静御前に再会したのでしょ。その後は、どうなったと思う?」
 凛太郎は、由奈からの突然の質問に、まるで夢から起こされたように由奈に向き合う。
「義経と静御前は、その後二人の長年の心の傷を癒し、愛しみ合いながら……、ここで仲良く暮らして行ったのだと思うよ」
 凛太郎はとにかくそう信じたかった。だからそう答えた。

「そうなのね」
 由奈は、なぜか二人の幸せを嫉(ねた)むように返した。そして、実に寂しそうにぽつりぽつりと呟く。
「凛太郎さん、今度、私……結婚することになったのよ、……、ゴメンね」
「えっ! どうして?」
 凛太郎は思わず聞き返した。しかし、その後の言葉が続いて出てこない。
 由奈は、いつの間にか凛太郎の背後から背中に頬をすり寄せてくる。そしてむせび泣くのだ。
「だけど、私……、私、ずっと……、凛太郎さんのことが好きだから」
 由奈は涙声で囁いた。
「俺も、由奈のこと好きだったし、今も好きだよ。だから、これからもずっと好きだよ」
 凛太郎はただ「好き」を繰り返した。なぜなら、こんな場面では、そう答えるしかできなかったのだった。


作品名:あなた待ち島 作家名:鮎風 遊