あなた待ち島
由奈は驚く。現実に、もう婚約までしてしまっている。
しかし、嬉しい。
やっと凛太郎が、決断してくれたのだ。由奈は今にも自分を失いそう。
「バカ、バカ、バカ……、そうしたら……」
由奈が凛太郎の胸の中で叫んだ。だが、「そうしたら」の後の言葉を、涙の中でつぐんでしまった。
凛太郎は、その「そうしたら」と言葉の先に、由奈は何を言いたいのか、それはわかっている。
多分由奈は、「結婚する前に、早く、私を奪ってしまって」と言いたかったのだろう。凛太郎は今まで以上に強く由奈を引き寄せた。そして二人は、二人の決意を確認するかのように、唇を激しく合わせるのだった。
凛太郎にはもう迷いはない。
「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」
七年前に、由奈にそう約束した。
由奈は老舗料亭の一人娘。その上に、婚約をしてしまっている。
だが七年経って、まだお互いの気持ちには変わりはなかった。
苦労は多いだろう。
だが、義経と静御前の愛と悲しみの純愛の旅に比べれば、大した話しではない。
しかし、目の前には、老舗料亭の件、由奈の婚約の件、自分の仕事の件、いろいろな難題がぶら下がっている。それでもついに、凛太郎は由奈を奪い取り、由奈と二人で永遠の愛を築いて行こうと決意した。
こんな決心をした時に、観光船の「ピー」と甲高い汽笛の合図音が鳴った。もうそろそろ出航する時間に。それはまるで、二人の新たな愛の旅立ちを祝っているようでもある。
二人は石段を下りて行き、帰りの便に乗船する。そんな時に、由奈が何気なく呟くのだ。
「もうこれで、私たちの今までの純愛は終わるのね。そして今日からは、義経と静御前のように、もっと戦う愛の旅が始まるのだわ。……、きっと」
凛太郎は、「多分、そうだろうね」とほぼ無意識に返した。そして由奈は確かめるように、凛太郎の男の覚悟に念押しをしてくるのだった。
「ねえ、凛太郎さん、義経のように、私、由奈女一人のために……、人生かけてくれるわよね」
おわり