あなた待ち島
一方、義経の方は?
一一八五年十一月に吉野山で静御前と別れ、それからその姿を忽然と消してしまっていた。
その後、義経は二年の長い逃亡生活の後、一一八七年にやっと平泉に辿り着くのだった。
そして時は流れ、義経三一歳は、一一八九年四月三〇日に奥州衣川で奇襲に合い、自ら命を絶ったとされている。
その六月十三日には、美酒に浸けられた義経の首が鎌倉の頼朝のもとに届けられた。そして首実検がなされた。
しかし、それは義経の首ではなかった。
その頃、義経は一体どこへ?
そう、静が待つ『あなた待ち島』へと、旅を急いでいたのだった。
凛太郎と由奈、二人は京都の学生時代に恋に落ちた。
しかし、凛太郎は地方から出て来た貧乏学生。由奈は京都老舗料亭の一人娘だった。当然料亭を継いで行く義務と責任がある。
それは実らぬ恋。そして悲しい別れが……。
由奈は最後に言った。
「今度、いつか逢えた時に、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」
そして、凛太郎は由奈に約束した。「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」と。
そして七年の月日が経ち、二人はばったりと出逢った。
由奈は、七年前の言葉通り、「あなた待ち島に連れてって」と言う。凛太郎はそのやり直しの約束を果たすべきかどうか、それを確かめるために由奈を連れて観光船に乗った。そして今二人は、そのあなた待ち島、竹生島(ちくぶしま)に到着した。
竹生島は、奥琵琶湖に浮かぶ翡翠(ひすい)のような美しい小さな島。
島に上がった凛太郎と由奈は、猫の額のような狭い船着き場から土産物屋の前を通り、お寺までの百六十段の急な階段を登った。その高台から琵琶湖が一望できる。
しかし、そこは湖が広がるだけで何もない。
凛太郎と由奈の二人は、並んで茫然とその眺望を眺めている。
そして、いつの間にか、八五〇年前の義経と静御前の再会の様子が、映画のシーンのようにそこに浮き上がってくるのだった。