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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは①<白いコートの女>

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 諦めて立ち去ろうとすると「こんばんは……」と呼びとめられたのだった。
 何故か少し元気がないような気がしたが、聴く事も出来ず同じように歩き、そしていつのまにか別れた。
 次の日、彼女は現れなかった。
 私は落胆と有るべき姿に戻った安心感とを心の中で戦わせつつ暗いアパートの部屋に戻ったのだった。
 私は部屋に戻って、或る事に気がついた。
 窓辺に置いた鉢植えのユリ。
 そのユリの花が萎れてしまったのだ。いや花だけでなく全体が萎れてしまった。
 そのユリは、彼女に遭遇する数日前に例の児童公園の植え込みの外側につぼみをつけていたのを私が鉢に植え替え持ち帰ったものだった。
 しかし悪意があっての事ではない。児童公園の広場の端の地面から伸びていたソレはともすれば子供たちの元気な靴に蹴散らされてしまうと感じたからであった。
 茎が多少傷ついていたのだが、添木をして大切にしたので蕾は開花していたのに……。
 私が浮かれていたのが悪かったのだ。あの日以来、平常心を失った私は鉢に水をやる事も忘れていた。
 そういえば家では食事を採るのもすっかり忘れていた。
 私はふと気がついた。
 彼女はこのユリの花の化身だったのではないか?
 確かに彼女にはじめて遭ったのは、花が咲いた翌日だったし。あの白いコートといい、彼女の風情はユリそのものの様でもあった。
 私はユリを、彼女を枯らしてしまった事を悔やんだ。ちゃんと世話をしていれば……。
 私はそのユリを元の場所に戻す事にした。
 いや、子供にいたずらでもされてはかわいそうだ。
 植え込みの中の明るい場所に植えてあげよう。
 枯れたと言っても完全に死んだ訳ではない。
 地面に植えてやれば、又元気になるような気がしたのだ。
 真夜中の公園にその鉢を持って出かけていった。少しだけ蒸し暑い夜だった。
 植え終って立ちあがると私は軽いめまいを感じた。倒れるほどではなかったが、一瞬暗くなる視界のどこかに彼女の微笑んだ顔を見た様だった……。