嘆きの運命
そこは市内でも大きい病院の一室。
1人の男性がベッドに横たわっている。
その傍らに立った白衣の医師が、その男の瞳をペンライトで確認した後、乾いた声で言った。
「残念ながらご臨終です。せっかく一時は調子が上向いていたのに、こんなことになるとは、非常に残念です。しかし、脳梗塞で倒れてここへ運ばれて来た時から、こうなることはある程度予測していましたがね。何にしても植物人間状態になると、回復は難しいものですから……」
言い訳がましくそう言うと、医師は患者の家族に一礼をして部屋を出て行った。
祥子は、心臓の動きの止まってしまった夫に向かって話しかけた。
「あなた、案外と短かったわね。植物人間になってしまったから、このまま何年もこの状態が続くかと思ってたわ」
「ねぇお母さん、お父さんは本当に死んじゃったの?」
学が母親に問いかけた。
「そうよ、学。お父さんは死んだのよ。淋しい?」
「ううん、全然! もう怒られることもないし、清々したよ」
「そう、良かった。これからはお母さんとふたりで仲良く、楽しく暮らしましょうね。幸いお父さんが生命保険に入っていたから、今後の生活には困らないわよ。ふふふっ」
「うん、僕はお母さんがいてくれればいいから……」
「ふふふっ、そうよねぇ〜」
ふたりは、今までのストレスだらけの嫌な生活から開放されて、自由で楽しい生活を過ごせることを頭に思い描き、その顔は嬉しそうに笑っていた。