嘆きの運命
「一体何をやってるんだ!! 何度言えば分かるんだ!」
「こんな簡単なことを間違えるなんて……。お前、一体この会社に入って何年経つと思ってるんだあー!? いい加減にしろっーー!!」
今日も怒鳴り声が飛んでいる。
いつものことと、社内のその部署にいる連中は半分呆れ、半分は叱られている者に憐みの目を向けている。
「す、すみません。僕が悪かったんです」
「当たり前だろ! そんなこと分かり切っているじゃないか!!」
「ほ、本当に申し訳ありませんでしたっ」
頭ごなしに怒鳴られているその男は、ひたすら平身低頭で謝っている。
嵐が過ぎるまでこの態勢が続く。
そんな2人を見て、こんなひそひそ声がしていることを、叱っている本人は聞こえているのかどうか…。
(もういいじゃないか…。なぁ、あんだけ叱れば充分だろ…。そうだよなぁ、何もそこまで言わなくてもなぁ。よっぽどストレスが溜まってんじゃないのかぁ?きっと家庭が上手くいってないんだよ!もしかしたら、あっちの方もご無沙汰だったりしてさっ。あっ、そうかもな…あははは…)
1人で大声を張り上げているのは、この食品会社に勤続20年の営業部長だ。
名前を岩沢哲夫と言い、年齢42歳。
30代で課長に抜擢され、現在は花の営業部長。
大学を出てからずっと出世街道を歩いてきた男だ。
社内では鬼の岩沢、略して鬼岩と呼ばれている。
確かに実力は社内でもかなりのもので、だからこそ若くして営業部長にまで昇格したのだけれど、何せ部下に対する思いやりには極端に欠けていた。
ただ、優秀な人材であることは社内の誰もが認めていただけに、誰も彼に注意することができなかった。