嘆きの運命
岩沢は目覚めた。
「んん? ここは……、会社の応接スペースじゃないか。俺はなんでここに……?」
少し頭がぼーっとしていた。
「おかしい、確かほんのちょっと前にも同じ状況を経験したような気がするが……。うーーん、思い出せない」
よっこらしょと起き上がると、事務所内に誰もいないのを確認し、自分の席に戻った。
これってもしかして……。
岩沢は夢遊病患者のように、自分のバッグを掴むとフラフラといつもの駅に向かっていた。
何も考えずに乗った電車の、車窓の暗い風景にも確かに見覚えがあった。
やっぱりそうなのか……?
まったく同じことを同じように繰り返してるこの感覚は、まるでデジャビュのようだが、しかしそうではないことが、なぜか自分でもわかっていた。
そして、電車を降りて歩いていて、自宅が間近に迫って来た時、自然と足が止まった。
そして、やっとはっきりと思い出した。
「そうだ! こうして帰ってきたら、祥子と学が殺されていたんだ!」
これ以上行くと、自宅の玄関が見えてしまう。
そしてそのドアの向こうには、祥子と学が……。
そう考えると恐ろしくて、岩沢は足を踏み出すことができなくなった。
急ぎ足で帰路を行く人たちが、怪訝な顔を向けて行く。
いつまでも、ここに踏みとどまっているわけにもいかないし……。
岩沢は迷った。
このまま家に帰るべきか?
もしくは帰らないで済ます方法がないものかと、脳みそをフル稼働して考えた。
どんなことがあっても、また同じ殺人現場を見たくはなかった。
そして迷った末、他に方法が見出せなかった岩沢は、恐る恐るまた歩き出した。