嘆きの運命
「あぁ夢の中の話のことか……」
「そうじゃ。お前、ずいぶん悲しんでおったじゃないか、見てて可哀想になってのう。本当はこんなことをしてはいかんのじゃが、お前の女房子供も、あまりにも哀れじゃしなぁ。生まれ変わるのを待たずとも願いを叶えてしんぜよう」
「えっ! 神様それは本当ですか?!」
思いがけず、祥子と学が戻ってくると聞いては、変に意地を張っても仕方ない。ここは騙されて元々かも……。
そう計算した岩沢は、急に丁寧な口調になった。
「で、私は何をどうすればいいんでしょう?」
「お前は何もすることなどないぞ。それはわしの仕事だからのう」
「へっ、そ、そうなんですか? 私はてっきり何かの条件をクリアしなきゃならないのかと……」
「それが人間の浅はかさよ。神ともあろう者が、交換条件など出すもんか!馬鹿にするでない!」
「あ、いや、決して馬鹿にしたわけでは……」
「わかっておる。さっきも言うたであろう。お前の心の中は、透明ガラスを透して見るように、すべて見えておるのじゃ」
「ははぁー、恐れ入ります」
なんだか調子が狂うような気もしたが、とりあえずは祥子と学が帰ってくるため、そう思って付き合った。
「ひとつもう一度確認するが、ふたりが帰ってきたら本当に大切にするのじゃな?」
「はい、それはもちろん」
「なら、ついでにもうひとつ言うが……」
「何でしょう?」
「お前、会社で自分がなんと呼ばれているか知っとるか?」
「はぁー? 会社でですかぁ?…なら、部長とか岩沢さんとか……ですかー?」
「お前、わかっとらんようじゃのう。お前は鬼岩と呼ばれておるんじゃぞっ」
「えーっ! お、に、い、わ…ですかー?」
「そうじゃ。お前はいっつも、部下の者たちを叱ってばかりおるじゃろうが」
「あ、まぁ、そのぅーですねぇ。出来の悪い奴らばっかりなんですよ」
「そうかも知れんが、いい機会だから、部下に優しく接してみたらどうだ?」
「はぁ、まぁ、神様がそうしろとおっしゃるなら……」
「うむ、良い心掛けじゃのう」
「それで、いつ2人は帰って来るんでしょうか?」
「お前が次に目覚めた時には、ふたりは以前と変わらずお前の家におるじゃろうて……。さてと、では、さらばじゃっ!」
そう言うと、今までそこにいたのが嘘のように、その年寄りは忽然と消えてしまった。
岩沢は、今までその老人がいた空間をポカーンと見つめ、今まで話したのがもしかして夢だったのか?と思った。
そして、また目覚めた時、岩沢は家にはいなかった。