【第七回・参】幸せ捜査網
「なぁ」
「なんです?」
「家入れば?」
「結構ですよありがとうございます」
緊那羅から一部始終を聞いた京助が魔法瓶の水筒とおにぎりを持ったまま桜の木を見上げた
「風邪引くだろが;」
春と言ってもさすがは北海道
日が暮れると吐く息は白く吹いてくる浜風は冷たかった
「…差し入れ」
さっきの言葉に返答がなかった乾闥婆に京助がおにぎりを差し出した
「降りてこいよ」
スタンと軽やかに着地した乾闥婆が京助を見た
「母さんも悠も緊那羅も…たぶん慧喜も心配してるぞ」
自分の着ていた上着を乾闥婆の肩に掛けながら京助が言う
「ったく…ほっぺたすげぇ冷てぇじゃん」
フニっと乾闥婆の頬をつまみ京助が溜息をつく
「…何するんですか」
ペシッと京助の手を叩いて乾闥婆が言う
「鳥類も心配してるんちゃうか?」
【ホレ】と京助が乾闥婆におにぎりを渡しながら言う
「…ありがとうございます」
受け取ると乾闥婆は迦楼羅の話題には触れずお礼だけを返した
「…京助」
「なした? やっぱ家はいる…」
苦笑いしながら振り向いて見た乾闥婆が別人に見えて京助が止まる
「…乾闥婆…だよな?」
一瞬、ほんの一瞬見えたのは黒髪の…
「そうですが?」
京助は目をこすり思い切り乾闥婆に顔を近づけた
「…離れてくれませんか」
鼻と鼻がついたところで乾闥婆が京助に言った
作品名:【第七回・参】幸せ捜査網 作家名:島原あゆむ