恋は未完のままで
あれは高校二年生の秋だった。
涼太はハンドボール部に所属していた。野球やバスケットに比べマイナーなスポーツ。そのせいか、そこからはみ出した生徒ばかりが集まっていた。
部員達は不良っぽいと言うか、素行が粗雑。煙草に喧嘩、それに女性問題。学校も手を焼いていた。
涼太もその一員と言えば、その部類であったのかも知れない。しかし割に練習に励む生徒でもあったし、それなりに学業にも励んでいた。
その上に、涼太は少し変わっていた。
不良のくせして何を考えていたのだろうか。不良少年には似つかわない美術部に所属していたのだ。
しかし運動部の練習が忙しい。
従って、そう絵画活動はできなかった。滅多に三階にある美術室には行けなかった。
だが九月の半ばも過ぎた頃、秋の出品のことを考え、ある放課後に美術室にふらっと入って行った。
そこでは愛沙一人がブルータスの石膏像を前にして、デッサンに取り組んでいた。
愛沙は活発な女学生。長い黒髪をなびかせ、いつも校内を颯爽(さつそう)と歩いていた。
そしてみんなが一目置くような利発な女学生だった。要は学年のマドンナだったのだ。
涼太がガラッと引き戸を開けて入って行くと、愛沙が少し驚いたようだ。
「涼太君、久し振りよ、今日は突然にどうしたの?」
愛沙が滅多に現れない涼太に微笑みながら聞いてきた。
「別に、ただ今度秋に展覧会があるだろ、それに何か出品しようかなあと思ったりもしてるんだけど・・・・・・」
涼太はそんな曖昧な口調で返した。
「そうなの、それで、どんな絵にするつもりなの?」
愛沙が意地悪っぽく聞き返してきた。
涼太には少し思いがあった。そしてそれを恥ずかし気もなく、愛沙に教えてしまうのだ。
「ピカソの青の時代のような絵が、描きたいのだけど」と。