恋は未完のままで
二人は今、裸のままでアトリエの床に並んで転がっている。
涼太は天井を虚(うつ)ろに見て、恍惚としている。そんな時に、愛沙が思い出したかのように聞いてきた。
「涼太君て、結婚してるんでしょ・・・・・・誰と?」
涼太は、これが一番聞かれたくない質問だ。
しかし、さっき愛沙との青春も既に終わってしまった。もう互いの心の縁も切れたはず。だから、涼太はぼそっと答える。
「美鈴だよ」
「えっ、知らなかったわ! 美鈴ちゃんなの」
愛沙はびっくりしている。
「何なのよ、それって!」
愛沙は裸になっていることも忘れ、ぱっと起きあがった。そして、叫びに似た声を発した。その後愛沙は黙り込んでしまった。
そして愛沙らしくない泣き方で、しくしくと泣き始めた。
「涼太君、知ってるの? 私、毎日、美術室でずっと待っていたのよ。なんで美鈴なの?」
愛沙はそんなことを言い出した。
「うん、そうか」
涼太は歯切れが悪い。
「あの時、美鈴が美術室に入って来たでしょ、あれ、見張ってたのよ。それで涼太君をさらって行ったの。だから、美鈴だけには負けたくなかったわ」
愛沙はなにか憎しみを込めて、そんなことを言い放ち、また泣き出すのだった。
涼太は、愛沙と美鈴の関係がどこでどうなっていたのかはわからない。