恋は未完のままで
涼太にとって、それは充分見覚えのある絵。
若い女学生が鉛筆で素描されている。
そしてその上から、水彩の絵の具で淡く色付けされているのだ。
それは決して上手い絵とは言えない。なにかふざけ合いながら描いたような絵なのだ。
サインはA/Rとあり、そしてその裏側にはメモが記されてある。
「高校二年生のある秋の日、それは二人の青春への旅立ち」と。
淡く描かれた一枚の女学生の水彩画。
涼太は、この絵を二十年以上捨てることができなかった。
妻にも秘密でずっと隠してきた。
そして、転勤先を性懲りもなく持ち歩いてきたのだ。