恋は未完のままで
涼太はその時初めて気付く。
愛沙にとっても、あの高校二年生のある秋の日、美術室で起こった二人の出来事、それが拭い去れないものになっているのだと。
そして、涼太は懐かしさで、その絵の前で茫然と突っ立っていた。
「涼太君、ひょっとしたら、涼太君じゃない」
女性の呼ぶ声が涼太の背後からする。涼太は振り返った。
「愛沙?」
涼太は思わず聞き返した。
「そうよ、涼太君、嬉しいわ、やっと見に来てくれたのね」
愛沙がニコニコと笑いながらそばへ寄り添ってくる。
「この絵は?」
涼太は尋ねてみた。
「そうよ、青春の出発点、わかるでしょ。それ、涼太君なのよ」
そんな風に、愛沙があっさりと答える。「ふーん」と、涼太はなぜか感心せざるを得ない。
「ねえ、涼太君、元気にしてた?」
「まあね、ここまではとりあえず生きてきたよ、愛沙は?」
「うん、それとなくね」