恋は未完のままで
確かにもう二十年の歳月は流れてしまっている。
あの高校二年生の秋。愛沙の乳房に触れ、そしてその乳首を口にふくんだ。その弾力のある柔らかさや重み、そしてその奇妙な味わい。
そして、左と右の微妙な差。決して忘れていない。
愛沙をモデルにデッサンした。そしてそれに愛沙が色付けた。その一枚の絵。涼太は、「高校二年生のある秋の日、それは二人の青春への旅立ち」と書き込んだ。
それに対し、愛沙はあの時囁いた。
「私達の青春は今日始まったのよ、だから、いつかきっと二人で終わらせましょう」と。
しかし、愛沙はもう涼太のことなど忘れ去ってしまっているだろう。
「だから、すべての関わりが、もう無色になっているかな」
涼太はそんなことを思いながら、その画廊のドアを押して中へと入って行った。
画廊の中はひんやりとした空気が流れている。
涼太は一枚一枚丁寧に鑑賞して歩く。そこにはまさに愛沙の描くタッチがあった。
涼太は憶えている。あの高校時代も、愛沙は何もかもを淡く柔らかく、マリー・ローランサンのような雰囲気で描いていた。
しかし一枚の絵の前で、涼太の目は釘付けとなってしまった。
その絵は、暗い青の背景に、若い男の子と女の子が向かい合って描かれている。そして男の子は、女の子の乳房を頬張っているのだ。
ピカソの青の世界に、少年と少女がマリー・ローランサンのようにふんわりと描かれている。そこにはエロチックないやらしさはない。むしろ二人の未熟さが充分伝わってくる。
「青春の出発点」
その絵には、そんな題名が付けられていた。