恋は未完のままで
高校二年生のある秋の日。
涼太と愛沙は美術室にいた。それが二人の青春の始まりだったのだろうか。
しかし、それから二十年の歳月が流れた。
涼太は今、転勤のため片付けをしている。そして暫く手を止めて、愛沙が淡く色付けした絵を眺めている。
「愛沙のこの左と右の乳房、微妙な差があったなあ」と感慨深い。
愛沙は高校卒業後、美大へと進んだ。そして女流画家としてデビューしたと、随分前に風の噂で聞いたことがある。
愛沙が今どこでどうしているのか、涼太は知らない。
涼太の今回の転勤。その引っ越しも終わり、京都へと戻ってきた。
時節は紅葉の深い秋。名所が賑わっている。
そんな秋の日に、涼太は休暇を取り、一人ふらっと京都東山を散策した。
高台寺から円山公園/知恩院へ。そして岡崎を通り、南禅寺へと抜けた。さらに銀閣寺へ向かう哲学の小径を歩いた。少し距離はあったが、秋の爽やかな風に乗せられて、悠々と。
その後に、銀閣寺道へと下りてきた。
その白川通りに小さな画廊がある。そこで個展が開かれていた。そこに案内が出ていた。
「愛沙の個展」と。
涼太はこれには驚いた。
涼太は、愛沙がこんな所で活躍していたのかと思い、嬉しくもなった。